愚者の仮面

スポンサーサイト

--/--/-- --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Top ▲

【第1話】青い空、そして謳う森に <15>

2011/04/30 21:57


 『おい、起きろ』

 どこかで聞いたような声が耳朶を打つ。
 シアンはその声に重いまぶたを持ち上げた。

 窓から差し込む明るい日に目を細めて、シアンは時刻が昼近いことを知る。

 『起きたか』

 頭のすぐ近くから聞こえる声に、シアンはその身を起こした。

 「……ああ、お前か」

 体を起こした途端、目に入ったのは漆黒の大蛇。
 昨日出会った青い瞳を持つ蛇だ。

 「お前、なんで此処にいるんだ」

 『契約だからな』

 蛇はそう、よく意味の分からないことをこともなげに、まるで当然のことのように言って、丸くなった。

 黒蛇はシアンの物言いたげな視線にも動じず、あくまでもマイペースに言う。

 『いいからさっさと飯を食ったらどうだ。先ほど友人の……レンクトといったか? あの少年が訪ねてきて、飯を置いて行った。お前があまりにもよく寝ているものだから、起こさなかったようだがな』

 「……全然気付かなかった」

 言われて見てみると、玄関の端に握り飯が4つほど置かれている。若干不格好なのはご愛敬か。
 レンクトが作ったのだろうことは、想像に難くない。

 それを見て、シアンは嬉しそうに目を細めた。

 昨夜は疲れきって何も食べずに寝てしまったので、正直言ってかなり空腹だった。

 「……いただきます」

 万感の思いを込めて手を合わせると、シアンはまずひとつ握り飯を手に取った。
 そして、思い出したようにもうひとつ手にとって、後ろに居る大蛇へ問いかける。

 「お前も食うか? てか、蛇は米なんか食えるのか?」

 『基本的には何でも食える……いただこうか』

 その言葉にシアンは驚いたように目を見開いてから、大蛇の前に握り飯を転がした。
 蛇はそれを上手く絡め取ると、少しずつ口に運び始める。

 それを見てから、シアンも飯をほおばった。

 しばらく2人は無言で食べ続けた。

 レンクトが持ってきたご飯はまだ微かに温かく、冷えきった心を暖める。

 「美味いな」

 『ああ、美味い』

 すぐに3つを平らげて、シアンはふぅと一息ついた。
 そして、昨日よりはずっと落ち着いた様子で、彼は青い瞳で黒の大蛇を見つめる。

 「……俺のことを殺さないのか?」

 随分と唐突な問いであったが、黒蛇は驚いた様子もなく、淡々と返す。

 『何故お前のことを殺さねばならない。我には理由がない』

 「理由ならあるだろ」

 シアンはぽつりと言った。

 「蛇は人を喰う」

 『それが理由か?』

 シアンの言葉に、大蛇は微かに嘲笑うような響きで言った。

 『人を喰うのは事実だが、真理ではない。ただ、事実であるだけで、それは理由ではない』

 それはそう言って、鮮烈な青い目をシアンへ向けた。その瞳には射るような強い光がある。

 シアンはその視線を真っ向から受け止めて、複雑そうな表情を浮かべた。そして、何処か責めるような声音で言った。

 「なら何故、お前は父さんたちを殺した?」

 『ほう、我がお前の父母を殺したと? 何故そう思う』

 静かだが苛烈な怒りを含むシアンの声に、黒蛇はやはり淡々と問い返す。
 それに少し苛ついたように声を荒げて、彼は噛みつくように言った。

 「お前は父さんたちのすぐ傍に居た。それはつまり、お前が父さんたちを殺したんだろ? そうでもなきゃ、2人があんなところで……」

 『死んでいるわけがない。そう言いたいんだな?』

 「……ああ」

 感情的になった自分を押さえるようにシアンは深く息を吐いた。そして、無理に感情を押し殺した声で彼は肯定する。

 そんなシアンを笑うように、大蛇は口の端を持ち上げて見せた。

 『些か強引な理論だが、まぁいいだろう……殺したのは確かに我だ』

 「……お前っ!」

 シアンが、怒りも露わに目をつり上げ怒鳴りかけると、それに畳みかけるように黒蛇は再び口を開く。

 『だが、お前の両親に頼まれてのことだ。我の責任ではない』

 「何だと……?」

 先ほどまでの勢いは何処へやら。シアンは力を無くしたようにぽかんとして言った。
 そして、今度は訝しそうに呟く。

 「どういうことだ?」

 そう問う声は厳しい。

 険しい顔をするシアンに、大蛇はビー玉のように感情の感じられない空虚な瞳で答えた。

 『お前は我と契約した』

                                          <続く>
スポンサーサイト
Top ▲

comment

comment

comment form

Passのない投稿は編集できません

Trackback

Trackback URL :
http://thefoolpersona.blog136.fc2.com/tb.php/96-cb8a5bbe

Copyright (c) 愚者の仮面 All Rights Reserved.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。