愚者の仮面

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四月の着信

2011/04/01 00:31

 朝早く、メールの着信を告げる音で明日は目を覚ました。

 「ううん……」

 まだ6時前。
 まだ高校生の彼にとって、春休み期間は例え平日であろうと休日であり、6時に起こされる謂われなど無い。というか、登校日でも5時代に起きる必然性は欠片もないのである。

 眠い目をこすり、明日は青い携帯を開いた。ほんの少し前まで眠りの中にいたからか、液晶の明かりですら目に痛い。

 「まったく……朝早くから一体誰が。あれ、珍しい。彼方からだ」

 ぶつぶつと文句を言いながら、明日は画面に表示された名前に少しだけ驚いたような声を上げた。
 明日にメールを送ってきたのは、幼少の頃から親しい友人である九条彼方だった。彼はあまりメールというもの自体が好きなタイプではなく、携帯を買ったのもほんの1ヶ月前だ。それからアドレス交換はしたものの、連絡を取ったのは1、2回程度である。しかも電話で。

 そんな彼がメールを送ってくるとは、まさにただ事ではない匂いがする。しかもこの時間だ。
 明日は慌てて本文を開いた。

 「えーと、なになに……」

 絵文字一つ無く、最低限の改行しかなされていない無愛想なメールであったが、そこが彼方らしい。
 明日はくすりと笑みをこぼして文章に目を通した。

 「『突然だけど、引っ越すことになった。学校も転校することになった。明後日出発なので今日しか会えそうにない。暇か?』……え?」

 携帯に向かい合ってぽかんと口を開ける。

 「えー!?」


 ――朝早くからとんでもないメールが届いたある金曜日。


 明日は慌ててもうひとりの友人に電話をかけた。





 「……いっくらなんでも、いきなり過ぎねぇ?」

 まだ寝癖の残る頭でいつかが首をひねった。

 明日が彼方と共通の友人であるいつかに連絡をとって、まだ小一時間ほどである。
 いつかは明日からの電話にすぐ出ると、明日が名乗る暇もなく一言目に彼方からのメールを口にした。当然といえば当然だが、彼のところにもあのメールは届いていたようだった。

 「これがなぁ……彼方じゃなかったら冗談っぽいんだが」

 「そうなんですよねぇ……彼方だから」

 九条彼方は普段からジョークといった類のことはもちろん、嘘も口にしない。彼は嘘をつく代わりに黙秘をする。何も言わないから分からないことは多々あるにしても、嘘を言われて騙されたことは今まで一度もない。
 だからこそ明日といつかは、メールの文面を笑い飛ばせない。

 「どうしようなぁ」

 「どうしましょう?」

 不景気な顔を並べて公園のブランコに座り込む男子高校生2名。錯覚だと信じたいが、残念ながら自分たちだった。

 彼方は高校入学時点からずっと一人暮らしだ。

 高校と家が遠いのが不便だったというのが一番の理由なのだが、何よりも彼方は親の世話になるのを嫌がっていた。幼少の頃から目の障害で迷惑をかけてきたからだろう。彼方は自分の親に妙に遠慮している。
 そんな彼が唐突な引っ越しを迫られたということは、きっと親の転勤などが理由なのだろうと思う。

 「どうしようもないもんなぁ……」

 「そうですね、せいぜい荷造りの手伝いくらいしか出来ませんし」

 「それすらも、あいつ一人暮らしだからあんま物ねーし」

 ふぅ、と2人してため息をつく。というか、やってられない、という気分だった。

 朝早い公園は人気もなく、春休みということもあるのか、普段は通学途中の学生が多く見られる通学路も人が少ない。そんなところに公園で遊ぶような年齢ではない2人の姿は浮いていた。

 「……とりあえず彼方のとこ行くか?」

 「そうですね。此処にいても意味ないですし」

 いつかの覇気のない言葉に明日も淡々と返してブランコを降りた。きーきーと揺れ続けるそれをもう一度見返して、明日は前を向く。

 「連絡だけいれておいた方がいいですよね?」

 「まぁ、そうだなぁ。いきなり訪ねても迷惑だしな」

 うーんと伸びをするいつかを横目で見て、明日はジーンズのポケットから携帯を取り出した。そして彼方のアドレスを呼び出し、今から行くと送る。
 送信画面を確認してから、明日はぱたんと画面を閉じた。そして隣に立つ長身を見上げる。

 「じゃあ、行きましょうか」

 「んー、そうだな」

 いつもは軽薄な笑みを浮かべているいつかも、流石に今日ばかりは苦り切った表情だ。彼なりに友人の引っ越しに寂しさを感じているのかもしれない。

 「彼方がいなくなったら寂しくなりますね」

 「そうだなぁ……オレがボケてもつっこんでくれる奴がいなくなる」

 「……そっちですか?」

 明日が予想外の回答に眉をしかめると、いつかは「冗談だ」と笑った。しかし目が本気なのは一体どういうことなのか。

 彼は「それもあるんだけどさ」と、前置きをして続ける。

 「なんだかんだ言って、高校入って一番最初に仲良くなった相手だからさ。また友達作り直すとこからスタートかと思うとちょっと凹む」

 「そうですねぇ……」

 明日は相槌を打って、彼方と初めて会ったときのことを思い返す。随分と昔の話だ。まだ2人とも幼稚園生だった頃。いつかとは小学生の時に知り合ったから、それよりもずっと前だ。

 「明日は幼稚園からだっけか?」

 いつかの問いに、明日はこくんと頷いた。そして当時を思い出し、少しだけ口元を緩める。

 「ええ、そのころから彼方は変わりませんけど」

 「……さぞ、無愛想な幼稚園生だったんだろうな」

 いつかが小さく苦笑いを浮かべた。おそらくあの無愛想な友人を幼くしてみたのだろう。想像もつかないかもしれないが、本当にそのままだ。
 
 笑わない、怒らない。
表情が変わらない彼は、ひしめく幼稚園児のなかでもひときわ異彩を放っていた。というか、ぶっちゃけ気味が悪かった。

 明日だって決して子供らしい子供ではなかったが、彼方の比ではない。

 彼は誰にも傷つけられないよう、誰も傷つけないように黙っていた。誰に話しかけられても、ぶつかられてもただ黙々と。
 そんな彼だったから、興味を持った明日は彼に話しかけたのだ。きっと、そうでもなければ彼方と仲良くなることなんてなかっただろう。

 そんな彼方がいなくなる。

 「そっかぁ……いなくなるのか」

 自覚してみると寂しいなんてものではなかった。何かがぽっかりとなくなってしまったような喪失感。
 
 もちろん大学まで一緒だとは思っていない。でも、せめて高校の3年間は一緒にいられると思っていた。けれど、その当然だと思っていたことも簡単に覆される。

 「寂しいですね」

 「そうだなぁ……」

 高校2年は彼方無しのスタートを迎えることになりそうだった。寂しいけれど、仕方のないことだ。

 それでも、明日にはいつかがいる。その他にもクラスメイトや、部活動の仲間、顔見知りの先生もいる。

 一人きりのスタートを迎える彼方のほうがよっぽど寂しいだろう。

 そう思うと何処かやりきれなかった。

 


 まだ比較的新しめのアパートの一室。そっけなく「九条」と書かれた表札を見て、明日はいつかと顔を見合わせた。

 「じゃあいきますよ」

 「おうよ! 驚かせてやろうぜ!」

 「……メールしてあるので、ドッキリにはならないと思います」

 何故か驚かせようとする友人を冷たい目で見遣って、明日は遠慮なくインターホンを押した。ピンポーン、と小気味いい音がして、中から「はーい」という彼方の声が聞こえてくる。

 「私です、彼方」

 隣でにやにや笑って何も言わないいつかを気味悪そうに見ながら、明日はインターホンに呼びかける。が、このインターホンはマイクがついていないことを失念していた。

 「……そっか、意味ないんでしたっけ」

 しかし、声は届いていたのだろう。やがて、扉の向こうから鍵を開ける音がして、彼方が顔をのぞかせる。
 そして、

 「はー……」

 い、と言いかけた彼方が一瞬で見えなくなった。

 「彼方!?」

 「にっしし、大・成・功」

 驚いて叫び声を上げる明日の隣で、いつかは満足げに笑う。
 
 どうやらいつかが、顔を出した彼方の顔を狙って、自分のショルダーバックを振りかぶったらしい。それが見事に大当たりし、彼方がダウンしたというわけだ。

 ドアの向こうで顔を押さえてうずくまる彼方に、明日は心配そうに話しかける。

 「だ、大丈夫ですか、彼方」

 「……ああ、大丈夫だ。腸が煮えくり返りそうだが」

 「そうでしょうね……」

 恨めしそうな声を上げ、指の間から自分を睨め上げる彼方を一瞥していつかは陽気に笑った。というか、普段の2割増しくらいの楽しそうな笑みだ。
 彼が楽しそうではないときはそう多くはないのだが。

 いつかは笑って彼方の鼻先にピースを突きつける。

 「はよー、彼方」

 「ああ、おはよう。出会い頭に一発殴ってやろうか」

 「届けばな」

 立ち上がった彼方が扉の内から拳を飛ばす。が、いつかは彼方より頭ひとつ分背が高く、なかなか頭には当たらない。
 彼は少しばかりいつかとじゃれると、諦めたようにはぁ、とため息をついた。

 「いつかに関わった俺がバカだった……」

 「なにそのオレがバカみたいな言い方」

 「やめろ、近付くな。バカがうつる」
 
 「ヒドい!」

 彼方がひらひらと手を振っていつかを追い払う。

 そんな、いつも通りのなんでもない掛け合いに明日は思わず吹き出す。そのままクスクスと笑っていると、バカ呼ばわりされたいつかがむすっとした顔で言った。

 「明日もヒドい」
 
 「ふふっ、すみません」

 「だって本当のことじゃねーか」

 むくれるいつかに、笑いながら謝る明日。そして、冷たい言葉を浴びせる彼方。
 もうこの先、このやりとりはそう簡単に出来なくなるのかもしれない。そう思うと寂しかった。

 ぶすっとしたいつかを無視して、彼方は明日を見る。

 「で、なにしに来たんだ?」

 「えっとぉ……」

 「引っ越しの手伝いでもと思って来たんだぜ。ありがたく思えよ」

 予想外の問いに明日が言いごもると、いつかがむすっとしたまま簡単に答える。
 その内容に彼方が少し眉をしかめたが、そちらには触れず、別の方に話を持ち込んだ。

 「引っ越しの手伝いにきて、友人の顔に鞄をぶつけるのか? バカの常識は俺程度には計りしれないな」

 「どういうことだよ!」

 そう言い捨て、彼方は明日の方に向き直る。後ろではいつかがぎゃーぎゃー言っているが、彼方は素知らぬ顔だ。

 「明日、上がれよ。お茶ぐらい出すからさ」

 「おじゃまします」

 「おい、オレの話を聞けー! てか、オレだけ放置!? 放置なのか!?」

 「あーもー、うるせーな。入れよ、近所迷惑」

 片耳を塞ぎ、うるさそうに顔をしかめて、彼方はいつかを室内に招き入れる。

 
 そして、いつかと明日が見たのは想像を絶した室内の状態だった。


 「彼方、これは?」

 「え、ちょっと待って、どういうこと?」

 彼方の部屋はいつも通りの様子を呈していて、とても引っ越し前の様子とは思えない状態だった。
 が、当の彼方は2人の様子の意味がよく分かっていないようで、不思議そうに首をひねっている。

 「これは、ってどういうことだよ」

 「いや、引っ越すって……」

 「あー、あれな……」

 明日が言い淀むように言った「引っ越し」という言葉に、彼方が苦笑を浮かべた。そして、頭を掻いて言う。

 「あれ嘘だから」

 「「え!?」」

 驚きの二重奏に、心底申し訳なさそうな顔で彼方は続けた。

 「おいお前ら、今日何月何日か知ってるか?」

 そう言われ、明日は携帯を取り出した。そして画面を見てみれば、年に一回なんとなく盛り上がる日付が浮かび上がる。

 「あ……」
 
 「なんだよ明日。何日だった?」

 すべての意味を悟った明日と違い、まだ日にちが分かっていないいつかは、不思議そうに明日の携帯をのぞき込んだ。その表情も一瞬にして渋くなる。

 「あー、なるほど……」

 「分かったか?」

 妙な空気になってしまった室内で、彼方は呆れたように言った。

 「今日は4月1日。エイプリルフールだよ」

 エイプリルフール。
 毎年4月1日には嘘をついてもよい、という風習。日本語では「四月馬鹿」だがまぁ、それはどうでもいいことだろう。

 「というわけで、俺は引っ越しません。その予定もないです」

 「納得しました。大騒ぎしてすみません……」

 「だってお前嘘つくタイプじゃないんだもん。信じちゃったじゃねーか」

 「……最初から疑ってかかれよ」

 至極ごもっともな彼方の突っ込みに、明日といつかはしゅんとする。ネタが分かれば、なんということでもないことだった。

 彼方は少しばかりばつが悪いのか、小さくため息をついて言う。

 「そんなわけで。高校2年でクラス分け、どうなるか分かんないけどさ。出来たらまた仲良くしてくれよ」

 そう言う彼の頬は微かに赤い。あまり素直なことは言わないタイプだから、少し照れくさいのだろう。
 けれど、そこは指摘しなかった。

 「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

 「おうよ! オレっちもよろしく!!」

 「明日、よろしくな」

 「……オレは?」

 また彼方がいつかをからかって。それを明日が笑って。

 こんな時がずっと続けばいい。でも、きっとそれは虫のいい考えだ。時が流れれば、皆別々の道を行くことになるだろう。

 
 だから。


 今だけはこうやって笑っていたい。

 そう思って明日は静かに目を伏せた。

 
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創作お疲れ様!

まさに、四月馬鹿な内容だったね(^^;)

普段、嘘をつかないような人間の嘘、例え「エイプリルフール」でも信じちゃうよね。
まぁそれも、長い間の付き合いがあったからこそ疑わないのだろう。
信頼できる友人同士だからこそ、つける嘘。だね。
なんだか、クールな彼方君に心を温められてしまいました(・∀・)

今回の作品は、普段書いている短編より遥かに読みやすかった。
(まぁ、短編と今回のを比べるもんじゃないけど;;)
それに、自分の好きなオリキャラだからだろうか、文章内で彼らを綺麗に扱えているように思えた。
割とすっきりと簡潔にまとまっていて、読みやすかったです^^
情景とかも想像しやすかったっす(`・ω・)b

ただ、もう少し文章に厚みをつけても良いかもしれない。
字数制限の影響かもしれないけど、読んでて混乱してしまうところがしばしば…。
もうちっと、有里さんの頭の中を文章に出してもいいような気がしました(´ω`)

ともあれ、創作活動本当にお疲れさまでした!!
ではでは、失礼しましたm(_ _)ノシ

投稿日
2011/04/01
投稿者
蒼牙
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Re: 創作お疲れ様!

>蒼牙さん

すみません、馬鹿な話を書きました(^^;
というわけで、普段嘘つかない友人に騙されたことのある有里馨です。

時間がなくて急いでたこともあるので、自分のお気に入りのキャラ使って書いただけなんですけどね。久しぶりに書いていて楽しかったです(笑)
彼方と明日はお気に入りですww(いつかは何処行った
多分組み合わせ的にも扱いやすいのかもしれないんですけどね。

時間があったら修正かけてからアップしたんですけど・・・・・・やっぱりちゃんと計画的に書かないと、時間が足りないですね^q^
読み返して今更悲鳴をあげています。自分でも場所が良く分からない・・・・・・
表現がぐだぐだです・・・・・すみません。

別に短編などは文字数制限は特に考えていないので、とりあえず時間がある限りはちゃんと情景描写をしようと思います・・・・・・プロットも書かないで書くと、こうなることが今回でよく分かりました(もっと早くに気付けよ

とりあえず、今一本中編作業中なのでそっちに情熱を捧げます。
どうも長い話は書いている途中で飽きる性質で、なかなかモチベーションが保てない・・・・・・そこが課題ですね・・・・・・

てか、先輩もサイト作りましょうよ! じろじろ見に行きますから(やめれ

それでは、コメントありがとうございました。またよろしければ見にきてくださいです。

投稿日
2011/04/01
投稿者
有里馨
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