愚者の仮面

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墓標の味わい

2017/05/15 10:31

 花のせせらぎに耳を澄ませて、少女は小さく息を吐いた。

 青い空、眩しい太陽、ときおり強く吹く風。
 砂交じりの白んだ風に目を眇めて、彼女は人間のいない花畑で身を起こした。

 お腹すいた。

 そんな思いがぽつりと浮かぶ。
 だが、あたりを見回しても花以外に見当たるものはなく、少女以外に自発的に動くものはない。
 動くものといっても、ただただ風に吹かれるままに揺れる様々な植物と、その足元でさらさらと音をたてて流れる砂ぐらいだ。

 たいした宛てもないが、なにかないだろうか、と立ち上がってみる。
 ふらつく両足になんとか力を入れ、ふらり、と一歩を踏み出す。

 足元には小さな白い花。
 茎にはとげがあり、少女の足を傷つける。
 肩に触れるほどの高さにまで育った枝先に、房状に連なる赤い花。
 その枝に絡まるように覆う蔦に、ぽつりと咲く薄紫の細い花。

 そして、青い空を映したような大きな青い花。

 まるで人のような大きさをしたその花は、悠然と太陽を受けて瑞々しく咲き誇っている。

 その足元に白い塊が見えた。
 しゃがみ込んでみる。そして、固いそれを手に取った。

 拾い上げてみると、それは人の頭蓋の形をしていた。
 少女の頭と同じぐらいの大きさの骨。
 白くまろみを帯びた形の白は、言葉はおろか、意志の気配すらない。

 昔は人がいたのだろうか。
 あるいは、まだいるのだろうか。

 白い骨は無言のまま、ひとりぼっちの人間を空虚な瞳で見つめている。

 モノ言わぬ頭蓋骨は青い花の足元に戻した。
 おそらく、そこがこの骨の場所なのだろう、となんとなく思ったからだった。
 大きな青い花は強い日差しから骨を守るように花弁を大きく広げ、ついでに少女のことまで守ってくれる。
 強い光をさえぎる青の前で、すっかり座り込んでしまった。

 この場所は居心地がいい。
 なるほど、だからこの骨はこの場所から動かなかったのかもしれない。
 その気持ちはわかる。この青はなんだかとても優しいのだ。

 だが、なによりも今は、お腹がすいていた。

 眼前にある青い花弁は瑞々しく、少女の視界で誘うように風に揺れている。
 ほんの少し、ちぎってみてもいいだろうか。
 誘惑に耐え切れず、大きな花びらに指を伸ばした。

 花びらを口にする。

 そっと噛んでみる。甘い。
 噛み続けるを奥から爽やかな甘さが押し寄せる。
 ごくん、と呑み込んでしまえば、舌の上に残るのはわずかな酸味だ。
 それから、苦い。

 近辺の花を一口ずつ味見して、なかでも気に入った赤い花をいくつか摘んだ。

 白い花は苦くていじわるな味がした。
 赤い花は元気が出るような甘い味だ。
 薄紫の細い花弁は奥に苦みのある甘い味。

 これからもっと歩かなければならない。
 誰かいないのか、歩いて探し続けなければならない。
 だから、なによりも励まされる赤い花を選んだ。

 両の手にあふれるほどの小さな赤い花たちを抱えて、歩き出す。

 途中、ぽつ、ぽつ、と赤い小さな花は両手から零れ落ちて行った。
 不毛の砂地にぽつりぽつりと赤い花が咲く。
 少女の足取りを知らせるように、風に消える足跡の代わりに砂へと半身を埋めていく。

 誰かこの足音に気付くだろうか。
 物言わぬ赤い足跡に、目を留めてくれるだろうか。

 生きているものは花以外のすべてが失せた世界で、無限に咲く花畑を、今、歩き始める。


 Arrive:
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