愚者の仮面

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花一華<真>

2017/02/24 15:00

  「花いちか」という少女は、恋多き女として校内に知れ渡っている。

 それは親友であるわたしから見ても間違っていないと思う。
 でも、彼女は彼女なりに真剣だということも、隣でずっと見ているからよく知っている。

 あの子はただ、自分の運命の人を探してるだけなのだから。

 お姫様のような外見をした彼女は、その姿に見合う王子さまをずっとずっと探している。
 自分を迎えに来てくれるのだと無邪気に信じている。

 それは子供だましの夢だと現実を叩きつけることは容易だけれど、いちかはいちかなりに迎えにきた王子さま候補たちに真剣に向き合った。見極める期間を設定して、だけど。
 その結果、彼女と付き合うと必ず1か月で別れる、という不名誉な噂が回り、じゃあ俺も、と短慮な遊び半分な男たちが寄ってくる、というわけだ。

 それでも、あの子がそんな男たちにも真摯に向き合う。
 遊び半分な始まりがきっかけでもその真剣な1か月を経て、遊び半分の男たちの心を折り、いちかは悲嘆に暮れながら別れを切り出す。その繰り返し。
 まぁ、あまりにも真剣ないちかに心を絆されるのか、元恋人たちとは別れたあとも良好な関係を築いているようだ。その流れから新しい恋人を作ることもあるみたいだし。
 ここまでくると、いちかの場合、一種の人たらしの才能のような気がしないでもないけれど。

 そんな王子さまが迎えに来るのを一心に待っている彼女に、ここしばらく小さな変化があった。
 どんな相手であっても付き合っている期間はその男だけを見る彼女が、初めて他の男に気を取られているのだ。

 その相手は今付き合っている彼と同じサッカー部に所属していて、いちかは知らないだろうけどわたしと同じ委員会にいる一つ下の後輩。
 兄貴の方は同じクラスで、性格はなかなかのろくでなしなのは知っている。
 けれど、弟の方は委員会で見る限り礼儀正しい子だし、部活での姿も先輩にかわいがられているようだった。
 サッカーも上手だし、笑顔もまだ幼さがあってかわいい。

 実のところ、いちかが目を奪われるのも分からなくはない。

 そして、彼もまたよくこちらを見ていた。
 いちかは美人だ。彼女に目を奪われる理由はよくわかる。
 隣にいるわたしのことなんか、きっと見えてもいないだろう。

 ため息が出る。

「はぁ……」

 わかっている。
 いちかに比べたらわたしなんかその辺に生えてる雑草だ。
 花なんか咲かない、誰にも気づかれずに踏みにじられて、そのまま起き上がれもしない弱い植物。
 
 だぁれも、綺麗な花に目を奪われて、隣のわたしになど気づかない。
 もう一度ため息が出た。

 だから、近い付いてきている影にもまったく気づいていなかった。

 ――「……あの……華先輩、であってますよね。佐藤、華先輩」

 名前を呼ばれて、振り向く。

 そこにいたのはいちかの彼氏の後輩のサッカー部の子。
 そして、わたしの所属する委員会の後輩でもある子。

 たぶん、いちかが今恋をしている男の子。

 だけど、彼が今呼んでいたのは確かにわたしの名前だった。

 そう、わたしの名前は佐藤華、だ。
 花いちかとは漢字が違うけれど、彼女の苗字とわたしの名前の読みの音が同じで、そこから仲良くなった。
 美人で無邪気で子供のようで、かわいいかわいい自慢のお友達。
 その名は有名だけれど、わたしの名を知っている意味が分からない。

 では、どうして彼はわたしの名前を知っているのだろう?

「あ、今いちか先輩はおれの先輩のところにいます。あとでこっちに来るそうです」
「ああ、うん。タオル渡しに行くー、って言ってたから知ってる。今日はわたしとご飯食べて帰る予定だから、このあと一緒に帰るの」

 今日も放課後はいつも通りにサッカー部の応援に来て。
 いつもならいちかは彼と一緒に帰るけれど、今日はわたしとご飯を食べに行く約束をしていたのでふたりで帰る予定だった。
 でもその前に彼氏のところに行ってくる、という彼女を送り出したのがつい先ほど。今は練習終わりの彼を労っているはずだ。
 やっぱり彼氏と一緒に帰る、と連絡に後輩君をよこしたのかとも思ったが、彼の様子をみているとどうもそういうわけではないらしい。

 彼は練習後のジャージ姿のままそこにとどまっている。
 さっさと戻って着替えないと体を冷やすんじゃないかと、なんだかこっちが心配になってしまう。
 そわそわと落ち着かないかのように、手のひらをジャージにこすり付けているその姿。いったいどうしたというのだろう。

「あの!」
「は、はい」

 びっくりした。
 普段の落ち着いた姿からはあまり想像できないテンパった大声で、彼は視線を地面に固定したまま大きく息を吐いた。
 そして、もう一度大きく吸って頭を下げる。

「おれと友達になって下さい!」
「……はい?」

 頭を下げる相手を間違っていないかと心配になったが、彼は頭を下げたまま上目づかいでこちらを見ている。
 人違いだったら困るので、思わず自分で自分を指さす。
 すると、彼は頭をあげて、こくこく、と二度頷いて見せた。わたしで間違いないのか。

 彼は居住まいを正すと、赤い頬でわたしを真っ直ぐに見た。

「実はですね、いちか先輩に、おれが練習のとき佐藤先輩のことずっと見てたのがばれてたみたいで……」

 彼は照れたように笑って頬を掻く。

「さっき、王子さまはお姫様を迎えに行くものなのよ、って怒られちゃったんです……意味はよく解らなかったんですけど」

 それは多分、分からなくて当たり前だと思う。
 
「おれずっと、華先輩がいちか先輩とサッカー部の応援に来てくれてたの、見てました。おれのことなんか知ってるわけないし、違う人の応援できてたんだろうな、とは思ってたんです。だから、別に声かける気とか全然なかったんですけど……その、先ほどいろいろあって」

 いろいろあって、の辺りにいちかにいろいろ言われただろうことが容易に想像できる。
 きっと王子さま理論を延々と聞かされたのだろう。凡人には8割ぐらい理解できない、あの子の運命論。
 先輩にまくしたてられたからには逃げ場はなかっただろうし、哀れな、という感想しか思い浮かばない。

「なので……おれと、まずは友達になってくれませんか?」

 おずおずと差し出された右手。

 彼はじっとわたしを見ている。
 わたしがずっと、いちかを見ていると勘違いをしていた子。あのとき合った視線は間違いではなかったのか。
 
 かたくこわばった赤い頬に、いいえと言える人がどれだけいるというのか。
 震える指先を両手でそっと包む。冷えた体温が伝わってくる。

「一個先輩だけどあんまり気にしなくていいから。仲良くしてね」
「はい!」

 そう言ってわらう彼に、微笑みかけて。

 その背後で、なにやらこそこそと、物陰に隠れてこっちを見ている親友とその恋人の姿をみとめて頭が痛くなる。
 ガッツポーズを見せる美人と、その隣で笑いをこらえている男の姿。
 ああ、その仲の睦まじいこと。いつものいちかの無邪気な笑みが、今の恋人の隣にある。
 彼女は、彼女の王子さまをようやく見つけることができたのかもしれない。

 では、いちかが彼のことを目で追っていたのは、いったいなんのためだったのだろうか。 
 ……まさか、わたしの視線を知っていたとか、ないよね?
 サッカー部のには王子さま候補の応援に行っていた。ただそれだけなんだよね……?

 本当の「花いちか」というのを、ずっと近くで見ていたはずなのに、わたしはなにも知らなかったのかもしれない。

 <花一華 了>
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