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鬼鎮之事<弐-漆>

2016/09/18 20:00

 聞きたいことはいろいろあった。

 本当にこれでいいのか、とか。
 人間に対して恨み言のひとつやふたつ、あるんじゃないのか、とか。
 お母さんはどんなひとだったの、とか。
 此処に居る、彼へ苦しみを生み出してしまった先祖の鬼のことをどう思っているの、とか。

 いっぱいあったのだけれど。

「ねぇ、なんで私に声かけたの」

 結局言葉にできたのはこれだけだった。

 最初は面をしていない少女に呆れて声をかけたのだろうとは思う。
 でも、なにも祭りのなかを連れて歩く必要など無かったはずだ。普通に面だけ押しつけて、次の伝統破りを探せばいい。
 呆れた女だ、と、少女のことはひとまず流してしまえばいい。

 仮面売りの目的は、少女たちがさらわれることがないように、人間たちに仮面をつけることを徹底させることだけだから。

 だけど、彼はそうしなかった。
 それは。その理由は。

「……一目惚れ?」

 そっと、ためらいがちの回答。
 ……まぁ、そんなことだろうとは思っていた。なので、さほど驚かない。

「あれ、驚かないね」
「なんとなくそんな気してたし」

 これだけ色々教えてもらって、気付かない方がどうかしている。

 彼らが祭りにくるのは自らの嫁にする少女を探しに来るため。
 仮面売りだって、その本能に似た何かを持ち合わせているはずだ。それを理性で必死に押さえつけて、手ずからそれを防ごうとするまでに。
 彼が誰かただひとりに目を留めたのなら、きっと、それはそういう意味だった。
 なによりも、もう、やりくちがただのナンパだったし。

 そっけなくそう言ってやると、青年は恥ずかしそうに、でも少しばつが悪そうに笑った。

「そっかそっか。女の子って本当に鋭いね」
「そうよ。だって、女だもの」
「うん。そうだね」

 そう頷いて笑う青年が、不思議と深く心に染み込んだ。

「さて、と。そろそろ帰った方がいいね。ご家族が心配するよ」

 青年の穏やかな声に、はっとする。慌てて浴衣の袖の時計を見れば、日付が変わる一時間前だった。
 まだ、外に祖父がいるだろうから一緒に帰った方が怒られずに済みそうだな、と計算をする。

「君のお爺さんもいるし、送って行かなくてもよさそうだね」
「そうね、アンタは信用できないし」

 わざと冷たくそう言う。そう言って、結局こらえきれずに互いに笑い合う。
 そっ、と青年が面を付け直し、蝋燭を手にとって立ち上がった。そして、少女に向かって反対側の手を差し出してくる。

「ほら、行こう」

 少しだけ迷って、結局その手を取った。彼に腕を引かれて立ち上がる。そして、神殿の戸を開いた。

 まだ外にはたくさんの人がいた。
 もちろん、彼女の祖父も。彼はほっとした様子だった。それに笑いかける。

 背後では、戸が閉まる音がした。彼はまだ、そこに残るのだろう。

 別れは告げられなかった。

 だから。

 鮮やかに笑う声で。

 彼女は。

「またね」

 そう、再会を告げた。
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