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鬼鎮之事<弐-陸>

2016/09/12 20:00

 おそらく、彼は結婚相手を探す立場だ。
 鬼なのだから。その血脈を守るために、この島を守るために、降りてくる、少女たちの神。

 それだけに彼がしていることはそれに抗うことで、普通に考えたらおかしな話である。

 ――彼からは、おそらく鬼としては風変わりな答えが返ってきた。

「だって、攫われる女の子が可哀想でしょう?」

 ただ一言。
 自分ではなく、誰かを案じるその響き。

 まぁ、確かにそれは当たり前のことでもあるのだけれど。
 でも、それは人間からしたら、というわけで。半分以上鬼であるという彼には、通じない理屈だろう。本能すら押し殺したその返答は、いっそ不可解に見えた。

 だけれど、彼はその理由は憂鬱そうに話す。

「僕は祖父は知ってるけど、祖母は知らない。人間だから、僕が産まれたときにはもう死んでた。だから、鬼に嫁いだ彼女が何を思ったのか、何を思っていたのか僕は知らない。
 でもね、僕の母は確実に父を恨んでいたよ。自分をさらった鬼を恨んでいた。だから、その間に生まれた僕たちのことなんか愛してくれなかったし。
 まぁ、当たり前だよね。無理矢理さらわれて、子供も無理に産まされて。だからこそ、兄たちは……ああ、僕には兄が三人いるんだけど、全員愛に飢えて、自分を愛してほしくて人をさらってた。で、その兄の奥さんたちもさ、なんか諦めたような目をしてた。
 それ見てさ。嫌だと思ったんだ。こんなの繰り返してたら駄目だって思った。
 人間たちは女の子がさらわれて悲しい思いをする。鬼の方も、産まれた子供たちが愛されないことによって、また人をさらう。そして、また人が哀しむ。
 こんな哀しいことが繰り返されるなら、どうにかして止めなきゃいけない、ってそう思ったんだよ」

 そして、自嘲するように嗤った。

 ほんの少しだけ疲れたようなその様子に心が痛んだ。自分も彼を追いつめた人間のうちのひとりなのだろうと思う。彼女もまた、その裏にある想いに気付きもせずに、伝統をないがしろにしてしまったひとりだ。
 最初に自分が言った言葉は彼を傷つけただろう、と今なら分かる。彼が大切に守ろうとしていたものを「馬鹿げた迷信」と言い放って笑ったのは他でもない自分だ。
 でも、青年はそれを笑うでもなく怒るでもなく、静かに受け止めていた。それが時代なのだと、諦めるように。
 それは、哀しい。

「……アンタはお嫁さん欲しくないの」
「僕は別に……いいよ。欲しくない訳じゃないけど、あんなことはもうごめんだから、いらないかな」
「そっか」

 沈黙が満ちる。
 もう語るべきことは語り尽くした、とでも言うように、青年は少女に背を向けて祭壇を見つめる。鬼の身体が奉られていると言われる、その場所を。

 それは彼にとって父を見つめるようなものだ。鬼の末裔は何を思うのだろう。
 鬼と人の間に産まれて、その未来を憂う鬼の子は。最初の鬼をどういうふうに思っているのだろう。

 でも、言葉にしたのはそれじゃなかった。
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