愚者の仮面

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Re:mind<前>

2016/08/25 15:46

 我が写真サークルは難しい人間関係を強いられている。

 女二人に男一人の計3人。
 よりによって人間関係を築くにあたり難しいといわれている人数なのである。

 地味眼鏡なわたしと、いつでも元気いっぱいな気のいい親友。そして、このサークルに入らなければ話すこともなかっただろう、茶に染めた髪をゆるくセットしてピアスなんかもあけちゃったりしている、いわゆるイマドキ系男子。
 
 とはいえ、そんな地味眼鏡だったわたしも、イマドキな彼に「眼鏡取ったら表情明るく見えるし、コンタクトにしてみれば?」という言葉にひょいひょい乗せられ、いまはコンタクトで素顔晒して生活しているわけなのだが。

 はてさて。そんなこんなで今日も我がサークルは3人の人間関係のお決まりのように、2対1に分かれてしまっている。
 カメラのメンテナンスをするわたし。二人で撮ってきたんだろう現像された写真広げて、きゃいきゃいと楽しそうなあの子と彼。

 いつもの、分かれ方。

 それをほんのちょっと、いや、かなり寂しく思いながら、わたしはカメラを掃除している。
 なんだかんだ細かい作業も多い。レンズプロテクターを外してレンズを拭いたり。ダイアルの隙間に入り込んでしまった埃を取ったり。しかも、フィルムカメラなんていう骨董品を使っているものだから、フィルム蓋まで開けてきっちり中を見て埃を飛ばさなきゃいけない。
 二人もそんなわたしの邪魔をしないように、と離れてくれている。わたしがこのカメラを大切にしていることを尊重してくれている。

 そんなふたりが、わたしは大好きだった。
 ただ、やっぱりちょっと、寂しいだけで。

 ぱちり、と心の片隅で痛みが弾ける。

 複雑な思いで二人を横目で見つつ、最後にレンズ蓋を閉めて掃除は完了。
 ふぅ、と一息つく。

 途端。

「ね、終わった?」

 ひょこひょこ、とやってくるのはソラ。「天」と書いて「そら」。彼女は短い髪をひらり、と揺らしてわたしの腕に自分の細腕を回した。

「ねーねー、さっき言ってた星の写真見たい!」
「うん、いいよ」
「やった。あたし、セナの写真好きなんだよね」
「へへ……ありがとう」
「照れてるセナも超かわいい」

 へにゃ、っと力の抜けた笑顔を満面に浮かべて、ソラはわたしの写真をめくっていく。
 黒いアルバムに綴じたのは、先日海岸まで車を走らせて撮りに行った夜景。

 わたし、星七(せな)は名前のせいか星空が好きだった。

 文房具はもちろん、洋服やアクセサリーも星を意匠されていると気になってしまうし、今つけている腕時計だって文字盤に星空を象ったもの。こちらはソラともお揃いで、二人でお揃いの腕時計をしているのはなんだかくすぐったい気持ちもある。
 でも、やっぱりお気に入り。

 そんなこんなでわたしは女だてらに深夜にひとり車を走らせ、星空を撮りに行くようにまでなっていた。

 今回は、工場地帯の背景に星を重ねている。
 我ながら、鮮烈な工場の光と昏い空に小さく瞬く星の光の世界は、うまく撮れた、と自画自賛できるレベルにはなっていた。

「うんうん、いいねぇ。すごくセナっぽい」
「ありがとう」

 くすぐったい気持ちでお礼を言うと、ソラは今度はぎゅーっとわたしの首に腕を回してきた。
 ……くるしい。

「ソラ……くるしい」
「んー、なになに?」
「いや、くるしい……」

 腕をとんとん叩いてなんとか伝えようとするも、ソラの腕は一向に離れる気配がない。
 どうしたものか、と思案すること少々。

「……ソラ、セナさん苦しそうだから離してあげなよ」

 離れたところから鶴の一声。
 目を向けてみれば、離れたところに、ぽつん、とひとり座っている彼が困ったような表情を浮かべていた。

 ようやく緩んだ腕に、ほっとする。

 わたしが無事解放されたことにふっとこちらに笑みを浮かべて、彼はソラへと呆れた顔で口を開いた。

「まったく……女同士べたべたしてるの見てるの、結構居たたまれないんだぞ」
「へーんだ、そんなこと言ってうらやましいくせに?」
「否定はしない」
「おや、素直ですな」
「悪いかよ」

 始まる気安い応酬。
 ポンポンと飛び交う言葉に一言も発せないまま、わたしはまた次第に強くなるソラの腕を未だ振りほどけずにいた。

「そんなこという奴にはもっと見せつけちゃうもんね?」
「だからやめろって。セナさん苦しそうな顔してるし」
「いいでしょ羨ましいでしょ」
「もうそれはいいから」
「ふっふーん。負けを認めたね?」
「いつから勝ち負けの話になったんだ……」

 ……くるしい。
 とんとんとん、とソラの腕をたたくと、さすがに今度は気づいてくれたのか腕は離れていった。

 ほっと一息。
 はぁ、と深く息を吐くと「お疲れ」と優しい声が降ってきた。

 ぱっと顔を上げると離れたところにいた彼が、うっすらと笑みを浮かべてそこに立っていた。

「おれも、セナさんの写真見てもいいかな?」

 一瞬言われた意味が分からなくて、少し間をおいて、慌てて首を縦に振った。

「う、うん。だいじょうぶ……ソラ」

 まだアルバムに釘付けのソラに話を振るも、彼女はぶんぶんと首を横に振る。

「まだ駄目ー。ユーキはあたしが見てから」
「はいはい、分かったよ」

 慣れたように肩をすくめて、彼はわたしとソラの間に椅子を持ってきた。
 座って落ち着かなさそうにアルバムを覗き込んでいる。

 そわそわと落ち着かない彼の姿に、思わず笑みがこぼれた。

「悠季くん、そんなに急がなくても写真は逃げないよ」

 びくり、と止まる彼の肩。
 こちらに振り向いた表情が悪事がばれた子供のようで、思わずまた笑ってしまう。
 慌てて口元を隠したけれど、残念ながら声は隠せない。
 ますますしょぼくれていく表情。それがもっと面白い。

「そんな笑わなくてもさぁ……」
「ご、ごめんなさい。つい、おかしくて……ふふっ」

 心地いい時間。
 パッと見は軽薄そうな雰囲気のある彼だけれど、話してみれば意外にも真面目で、素直なところがかわいい人だ。悠季くんはそういう自分を恥ずかしがっているのだけれど。そこがまたかわいいのは内緒だ。

 普段の彼はソラと仲がいいのもあって、こうやってふたりで話をすることは滅多にない。
 せっかくだ、とアルバムから目を離さないソラを横目に彼へ話しかける。

 ここでもまた、2対1。

「悠季くんは最近写真取りに行ってる?」
「あー……うん、一応行ってるは行ってる。けど……セナさんに見せられるようなモンじゃない、かな?」

 そういって逸らされる視線に胸が、ちりり、ぱちり、と音を立てて痛む。
 さっき、ソラとみていた写真は彼の物ではないのかな。それとも、ふたりで撮ったものなのかな。
 聞きたくても、怖くて聞けないのだけれど。

「悠季くんのはミラーレスだっけ? この部に入るときに買ったんだもんね」
「うん、セナさんに選んでもらったやつ。おれ、今もだけど全然カメラのことわかんなかったからさ、すごく助かったよ。小さいからどこでも使いやすいし……機能はまだあんまり把握できてないけど」
「大丈夫大丈夫、シャッター切れば写真は撮れるし」
「あはは、たしかにね」

 からからと表裏なくまっすぐ笑う彼の顔にもうひとつ笑みをこぼして、そこからつらつら語られる日常に耳を澄ます。

 すると、彼の肩の向こう、不機嫌そうなソラのふくれっ面が見えた。

「ソラ、どうかした?」
「あたし抜きで楽しそう。ずるいー!」
「ずるいって、お前……」
「ずるいずるい! セナはあたしのだもん!」

 そういって手に持ったアルバムで、ばこんばこん、と悠季くんを叩くソラ。
 そのアルバムはわたしの物なのだけれど……

 悠季くんはむすっとした様子で頭上に振りかぶられたアルバムをキャッチした。

「暴力反対」
「ちがうもん、正当な権利の行使だもん」
「わたしのアルバムでやらないでね」
「あ……ごめん」

 しょぼん、とするソラに「へーきへーき」と返して、

「じゃあ、悠季くん。今度こそどうぞ」

 と、アルバムを示す。
 彼はこくりと頷くと、ソラから殴り渡されたアルバムを開く。そして食い入るように写真を眺め始めた。ちょっと気恥ずかしい。
 彼は無言のままページを進め、写真から目を離さないまま呟いた。

「……すごく、綺麗だね」

 まっすぐな言葉に少し照れる。

「さすがに、ずっと撮ってるとね。少しは上達するっていうかさ。ほら、この前天文学の授業でも少しやったじゃない? さわりだけだったけど天体写真の撮り方」

 こくん、と頷く彼。席は離れていたけれど、彼もまた、わたしと同じくこの講義を取っている。
 仲間内に囲まれて楽しそうにしているものだからてっきり授業は聞いていないものだと思っていたのだけれど、どうやらそうでもないらしい。

「……超新星爆発」

 ぼそり、とソラ。
 わたしはそれに頷いて見せて、その続きを口にした。

「そう、超新星爆発。大きな星が長く燃え続けた結果、その最期の煌めきのことね。新しい星が生まれるかのような大きな光だ、っていうはなし。超新星、って云われるけど、あくまで死ぬ瞬間なんだよね。わたしも写真はともかく、実際には見たことがないからどういう光なのかはわからないけど」

 わたしが記憶を思い返しながら言う間も、彼は黙ってアルバムを眺めていた。そして、ぽつりと口を開く。

「超新星爆発もさ、この写真みたいに綺麗なのかな。おれ……見てみたいかも」
「そうだね、わたしも見てみたい」

 哀しい瞬間ではあるけれど、きっと綺麗なんだろう。

「流れ星も綺麗だけど、こっちはあくまでも塵が大気圏に突入して燃え尽きる姿だもんね。超新星爆発はそれよりもずっと大きくて、特別なものだから」
「うん、そうだね」

 ふっ、とふたりで笑みを交わし合う。
 なんだか暖かな気持ちだった。同じことで会話するのも、同じことに興味を持ったのも、同じことを特別だと感じたことも。

 ずっと胸のうちに燻っていたちりちりとした痛みが少し収まる。

「いいな、おれも、こんな風に撮れるようになりたい」

 そう、悠季くんが呟いた時だった。


   <続く>
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