愚者の仮面

スポンサーサイト

--/--/-- --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Top ▲

鬼鎮之事<弐-壱>

2014/02/21 16:26

 男の仕事は少女が見るかぎり意味が不明だった。

 仮面をしていない人を目ざとく見つけては声をかけ、相手が警戒心も露わにしているというのに無遠慮に仮面を押しつけては金を貰う、という、最早悪質なキャッチセールスのようだった。
 かといって、あくどいことをしているというわけでもなく、面を着けていない子供相手に無料で仮面をあげたりと、彼女には彼の目的はよく分からない。

 儲けを目的にしているのかと最初は思わなくもなかったが、子供や少女には普通に仮面をくれているし、どういう採算でこの商売をやっているのか。こうやって見ている限りまったくもって理解できなかった。

「ねぇ、アンタ。なんでこんな仕事やってんの?」
「うーん、君の嫌う風習とやらを守るためさ」
「さっきからタダであげちゃったりしてるけど、儲けは出るわけ?」
「うーん、その年々かな。大人からはお金取るけど子供からはとらないようにしてるし。だから、その年のお客さんの大人と子供の比率によって、だよ」
「……雑ね」
「そうかも……うん、そうだね。商売っぽくは見えないかもなぁ」

 そう言って、彼は周りにある屋台を見回した。

「さっきから僕について来るばっかりで何も見てないけど、なんか食べたいものとか見たいものってないのかな?」
「別にいい」
「おごってあげるよ?」
「なら食べる」
「……女の子って怖いなぁ」

 狐面の向こうから苦笑気味な声が聞こえたが、少女は構わなかった。
 おごりの食べ物ほど美味しいものはないのである。

「じゃあ、林檎飴食べたい」
「あ、赤い食べ物だね」

 そう言って、男は少女の赤い浴衣を眺めた。髪留めも紅だから、彼女が赤が好きなのだと、そう思ったのかもしれない。そして、それはあながちはずれでもなかった。

「なんかよくわかんないけど、うちの家族みんな赤が好きなのよね。へんなの。まぁ、私もなんだけどさ」
「ふぅん」

 仮面売りは納得と疑問の間のような声でそう言って、彼はふらりと林檎飴の屋台に向かった。
 そして、仮面売りの格好にあっけにとられたような店主に金を渡して、一回じゃんけんをしてから戻ってきた。その手には二本の林檎飴が握られている。

「じゃんけんで勝ったからもう一本くれたよ。ハイ」
「……ありがと」

 きっと仮面売りの珍妙な格好に気を取られて上の空でじゃんけんをしたに違いない、と少女は少しだけ林檎飴屋の店主を気の毒に思った。

 赤い飴を舐めて、屋台通りの先に進む。

 屋台通りの先に赤い鳥居が見えた。この祭りの中心にある神社の境内の入り口である。

 もう此処まで来たのか、と少しだけ驚いた。
 普段こんなところには来ないから、いまいち距離間が分からなかったのだ。まぁ、行きつけの場所が神社の女子高生などあまり居ないとも思うが。

 鳥居をくぐる。神社の境内に入る。

 此処には当然のように屋台は出ていない。神聖な場を穢すな、と本家頭首が厳命を出しているからだ。 
 しかし、ごった返すような人は相変わらずだった。

 その多くは大人たちだ。鬼神を信じている大人たち。

 仮面売りが祭りの入り口近くでさんざん仮面を配り歩いていたかいもあってか、さすがに奥まで来ると面をしていない人は見かけなくなっていた。
 まぁ、奥には鬼の奉ってある神殿があり、その周りには当然のように見張りも多く、面をしていないとこっぴどく叱られるから、という理由もあるのかもしれない。
 
そして、神殿近くまで来るような人々は信心深い者が多く、そもそも面をしてこない、ということがない、というのもあるのだろう。

 ――此処は、島の中心地でかつての鬼神の御神体を奉ってある神社だ。

 奥には神殿があり、周りをぐるりと警邏の人々が鬼の面をつけて見回っている。神聖な場所であると深く信じられているその場所を守るために。
 
 その中にはもちろん彼女の親族もいる。
 伝統を守るため、と、率先して神殿の守りを固めているのは鬼の血族たちだ。

 実は個人で此処まで来るのは初めてのことだった。親族の伝統行事とやらに付き合わされて来たことは何度もあるが、鬼など信じていない少女は好き好んで此処に近づこうとは思わなかったから。

 そしてまた、夜の神殿に来たのも初めてだった。

 嫌だ、と本能的に感じた。此処にはいたくない、とも。
 暗い闇の中に佇む古い社は、少女には禍々しく思えた。

 それを見透かしたのか、隣に立つ仮面売りが小さく言う。

「怖い?」

 それは的確な指摘だった。しかし、おとなしく頷いてやるのも癪で黙ってやり過ごす。

 でも、その沈黙で気付いたのだろう。
 男が静かに笑う気配がして、それでも彼が何も言わなかったから、少女は大人しく静かな人波のなかじっとしていた。
 
スポンサーサイト
Top ▲

comment

comment

comment form

Passのない投稿は編集できません

Trackback

Trackback URL :
http://thefoolpersona.blog136.fc2.com/tb.php/202-e15e4514

Copyright (c) 愚者の仮面 All Rights Reserved.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。