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鬼鎮之事<壱-壱>

2014/02/07 20:21


 その地には神がいる。

 神というにはあまりにも荒々しく、かといってふさわしい威厳がないかと問われればそうでもない、という、そんな鎮守神。

 その神は、鬼だ。

 遙か昔に流れ着いた鬼が、この島に住む女性に恋をした。
 しかし、鬼は鬼。鬼は本能に従って島の人間を喰らった。
 そんな鬼の仕業に恐れをなした島の民たちは、荒ぶる鬼を鎮めるため、鬼が恋した女性を差し出した。
 そして、鬼はそれに免じて人を襲うことはやめ、島の鎮守神として人々を災厄から守るようになったのだ。

 そうして、島には鬼神が奉られることとなった。

 その女性との間に残した子供たちが今の島民だと言われており、鬼の本筋の血を受け継いでいる一族は神の血筋として今でも敬われている。

 だが。

 これは平成の世を生きる若人には現実味のない話であり、当然鬼の一族の末裔である少女もまた、そんな迷信、欠片も信じてなどいなかった。

 その彼女は今、島の祭りに来ていた。

「ね、どこから見る?」

 茜色に緋の散る浴衣を身に纏い、笑う少女は何処にでもいる普通の女の子だ。

 だが、彼女は島では有名な鬼の血族の末裔。高貴な血筋として敬われる子供。
 祭りの喧噪の中を歩けば人々はこぞって彼女を指を指す。鬼の子供だ、と。
 それでいて、鬼を敬わない異端の子だ、と。

 しかし、彼女は気にしない。
 今時、鬼だと神だと騒ぐのはあまりにも時代錯誤だと迷信深いお年寄りたちを笑っていたし、人のことを見ては拝むようにしていく島民たちを煩わしいとすら思っていた。
 だから、彼女はその風習に反抗するように自由に生きていた。

「ね、良太。何の屋台から行こっか?」

 彼女が笑いかけるのは、茶色に染めた髪を寝癖のように散らした今時掃いて捨てるほどいる普通の少年。
 彼は、まとわりついてくる少女を疎ましそうに見ていた。

「……そんなことよりお前、お面をしなくていいのかよ?」
「いいのいいの。逆に聞くけどさ、そんな古臭い風習を良太、信じてるの?」
「そういうわけじゃないけどさ……」

 そう言って少年は、髪の上に載せた鬼の面を気まずげに下ろした。その様を見て少女が艶やかに笑う。

「だってバカみたいじゃない? 鎮守祭には鬼が紛れ込むから人間だってバレないようにお面しろ、だなんて。人だと知られたら鬼に喰べられる? あり得ないってそんなの」
「そんなのオレだって信じてないけど、空気読む、ってのがあるだろ。特にお前なんか本家の……」
「あーあー聞きたくない!」

 耳を塞ぐ仕草をしてみせる。それを見て、少年が呆れたような表情を見せた。

「お前、ほんといい加減にしろよな」
「だってぇ」
「……もういいよ。お前、メンドクサい」

 もうひとつため息をついて、少年はひとり足早に歩き出す。

「ちょっと待ってよ!」
「ついてくんな」

 冷たい一言。彼女に向けられた視線は冷ややかで鋭かった。
 そして、足早に人混みのなかに紛れて行ってしまった。少女の履き慣れない草履の足では追いつけないほど、早く。

「……嘘でしょ?」

 人波の中に飲まれて見えなくなってしまった彼の背中に、少女は呆然と立ち止まる。

 祭りの喧噪だけが嫌に浮き立っていた。
 しかし、その中でも鮮明に、男に置いて行かれた彼女を笑う声が聞こえた。
 鬼を笑った罰だと。習慣を軽んじた報いだと。彼女を笑う声。

「……うるさい!」

 一喝する。
 それだけで楽しげな雰囲気が一瞬凍り付く。周りを歩く顔の無いニンゲンが少女を避けて往く。

 いかに異端と言われ、あまつさえ嘲笑われようとも、彼女はこの島では敬われるべき存在だ。
 だから、彼女が一言言えば島民はそれに従う。
 それは、彼女に恐れを為して、というよりは、彼女の背後にいる鬼の伝統だとか、島をまとめる彼女の祖父を恐れてのことに他ならない。

 腹が立った。楽しそうな祭りにも、伝統とやらにしばられて少女を恐れる民にも、彼女を置いていった男にも。とにかく腹が立った。
 その怒りに行き場は無かったけれど。

「……帰るっ!」

 吐き捨てるようにそう言うと。

「え、帰ってしまうの?」

 と、朗らかな男の声が彼女の背後で応えた。

 少女を置いて去ってしまった男の声ではない。それに、そもそも聞き覚えもない。
 振り返る。

 そこに立つのは奇妙な格好をした痩躯の男だった。
 
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