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誰かのための誰かの殺人

2013/08/29 23:18

 彼はまず1人目を殺して、その死体を見下ろしながら呟いた。

「美しくない。実に、美しくない」

 彼は人殺しだ。
 日常的に人を殺すことを生業としている。

 今日は、彼の殺人をより美しく魅せるため、何度となく人を殺め続けていた。

 しかし、いくらやっても上手く行かない。

「こうじゃない、これでは美しくない」

 死体を前に、狂ったようにそう呟き続ける。

 彼にとって『美しい』とは、非の打ち所のない、という意味である。

 誰も知らない、誰にも分からない、誰もが恐れ慄く、そんな『美しい』殺人。
 それでいて、特定の誰かさえ分かってくれればいい、という、そんな殺人。
 
 彼の芸術は、ある1人にさえ理解してもらえればそれでいいのだ。
 それ以外の人間になど、興味はない。
 他人は必要なスパイスだが、一番重要なのは彼らではない。
 あの人さえ理解してくれれば、他の人間など、ただの観衆に過ぎないのだから。

 けれど、今回は失敗してしまった。

「これじゃあ、駄目だ。証拠が無さすぎる」

 彼はあまりに完璧に、誰も、そう、あの人すら気付いてくれないかもしれないほど、それほどに完全に殺人を犯してしまった。
 しかし、これでは意味がない。

 やり直さなければ、もう一度やり直さなければいけない。

 完璧に。
 でも、ほんの少しくらい、隠し味のような失敗を残して。

 彼は人殺しだ。
 日常的に人を殺すことを生業としている。
 それは、肉体的にも、精神的にも、ヒトを殺すことが仕事だった。

「ああ、本当に駄目だ……これでは推理小説とは言えん。書き直しか」

 そう呟いて、また一つ屍を転がす。
 彼の足もとには、床を覆い尽くすほどの無数の紙屑が転がっていた。
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こんにちは。
お久しぶりです。木々見カキマです

序盤からなにやら狂気殺人の臭いが漂ってたんですが、完全犯罪を忌避するってなんだろうと腑に落ちないまま読み進めて、オチで「あ、なるほど」と納得でした
面白かったです。
誰かのためっていうのは、読者のためだったんですね。
文章作成中の現場はまさに死屍累々ですね(笑

考えてみれば小説の中で描写とか背景とか状況を詳細に書かなければ、読者にとっての『不可能犯罪』とか『完全犯罪』ってけっこう簡単にできあがってしまうんですよね、たぶん。
だからこそ、さりげない伏線とか、細やかな描写や状況設定がミステリには不可欠なんですよね。それが本当に難しいのですが……。
ミステリ作家さんはそのあたりを巧みに扱うので、本当にすごいなぁ、とミステリを読むたびに感嘆してしまいます。
適度な証拠を残さないといけないっていうのはものすごい縛りですね。ミステリにとって『完璧』ってどういう状態なんでしょうね。

長々と感想にもならない感想を失礼しました。
楽しかったです。ありがとうございました

ではでは

投稿日
2013/09/13
投稿者
木々見カキマ
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Re: タイトルなし

>木々見カキマさん
こんにちは、お久しぶりで御座います!

そうですね。
この「誰か」は、「読者」でもあり「犯人」でもあり、なによりも「探偵」のためでもある、という、小説が推理小説でなければ困る、という人に向けられた「誰か」なのかなぁ、なんて思いつつ書きました。
紙の上で殺された人なんていうのはきっと数えきれないほどいっぱいいて、なおかつ2度3度と繰り返された殺人というのもまた、紙の上ならよくあることなのだろうな、としみじみ思います。
本当に、作業現場は死屍累々ですね(笑)

こうやって考えるとミステリの「完璧」って分からないですよね。
完全犯罪じゃ困るけど読者に途中で全部気付かれてしまっては意味がないですし。
ミステリ作家さんは本当に尊敬します……いい塩梅で謎が散りばめられているのを見ると胸が高鳴りますし。
これぞプロ、ですよね……

ではでは、拙作に感想ありがとうございました。

投稿日
2013/09/16
投稿者
有里馨
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