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宵祭之事<参>

2013/03/18 22:02

 星が動くにつれて、流れるように人が去っていく。
 祭りが始まった頃はまだ薄明るかった空は完全に闇色へと表情を変えていた。

「君だとは限らないんだけどさ」

 人もまばらになり屋台も少しずつ光を失っていくなか、ぽつりと青年が言った。

「去年の夏祭りの日、この神社の階段から落ちた子がいるんだってさ。来るとき見なかった? 鳥居のところに献花があったでしょ」

「……うん」

 確かに見た。
 あの時は特に気にも留めなかったが、あれにはそういう意味があったのか。

「亡くなった子、中学三年生だったらしいんだよね。君もそれぐらいの年だよね。まだ生きてたら今年は高校生になっていたのかな……もしかしたら君のお友達が着ていた制服を着ていたのかもね」

 それを聞いて、すとん、と何かが胸に落ちた。
 納得というわけでもなく、どちらかと言えば諦観に似た何かで心が満たされる。


「……ああ、だから『今日』なのか」


 ぼんやりと思い返す。

 来るときに見かけた朽ちかけた鳥居の足下にひっそりと置かれた花束。
 あれを自分は供え物か何かだと思った。
 そんなわけないじゃないか、と今なら思う。
 神への献上物なら祭壇におかれるはずだろう。あんな場所に無造作に置かれているはずがない。

 あれは献花だ。
 例えば交通事故で誰かが亡くなったとき、交差点の端にひっそりと置かれるような。

 神ではなく、人に捧げられる花だ。

 同級生が高校の制服を着ている意味。今ならそれが分かる。

「あいつはあの高校、受かったんだな」

 一年経ったのだ。
 少年を置いて、彼らは一年先を生きた。きっとそういうことなのだろう。
 
 やっぱりあの制服着てみたかったなぁ、と思う。
 ネクタイをしているだけでなんだか大人に見える気がするのだ。事実、友人たちは自分とは違って一年積み重ねているのだけれど。

「一年か……やっぱ長いなぁ」

「そうかな?」

「そうだよ、だって俺と同い年の奴が違う制服着てるんだぜ? 一年って見方によっては大きいよ」

 まぁ、それもこんなことになったからこそ気付けることなのだろうが。

「さて、と……これからどうしようかなぁ」

 ごろん、と石段の上に寝転がる。
 なんだか罰が当たりそうだが、まぁ打ちのめされている人のことぐらい見逃してくれるだろう。それぐらい優しい神様だと信じたい。

 冷たい石段の固さ背中に感じながら、じっと星空を眺める。そして、気がついた。
 もう帰るべきところも行くべきところも、自分にはないのだと。

 本当に自由になってしまった。死んだら天国に行くものだとずっと思っていたのだが、どうにも行きそびれてしまったようであるし。
 死んだことも分からない自分には、天国への逝き方も分からない。

 いっそ、家に帰ろうかと思った。
 親が死ぬまで、その生活を見ているのも悪くないかもしれない。きっと寂しい想いはするだろうけれど。

 親とも、誰とも言葉を交わすことさえ出来ない、そんな日々だろうけれど。

「……帰りたくねぇな」

 自らの口から震えた声がこぼれ落ちる。

 そんな日々を考えると気が狂いそうだった。
 目の前にいるのに誰とも言葉を交わせず過ごす日々などぞっとする。それならばいっそ消えてしまいたい。

 じわっ、と瞼の裏が熱くなる。両腕で顔を覆った。

 泣きたくない。けれど、苦しくてたまらなかった。

 ――「なら、おれと一緒に来る?」

 上から声が降る。
 それは静かな問いだったが、すっと胸に沁み入るような優しさがあった。

 ぱっと上を見れば、青年が少年をじっと見下ろしている。

 暗がりに落ちてその表情は見えない。
 けれど、なんとなく微笑んでいるような気がした。
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