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宵祭之事<弐-弐>

2013/03/12 22:18

 普通死んだら自分の遺体を幽体離脱したように見下ろす経験ぐらいしそうなものだ。流石にそんなことを経験すれば自分が死んだんだって分かるだろうし。

 けれど、少年にそんな記憶はない。
 普通に昨日は学校に行ったし塾にも行った。それで、今日はお祭りだからちょっとぐらい息抜きをしようと此処にきたのだ。

 死んだきっかけも分からないし、いくらそうだと言われても未だに現実味がない。
 何故、自分は死んだのだろうか?
 そして、何故そのことに気付かなかったのだろう?

 だが、青年はその疑問にさらっと答えた。

「んー、でもそれってもしかしたら当たり前のことなんじゃない?」

「は?」

 ぽかーんとする少年を置き去りにして、青年はこともなげに続ける。

「おれは病気だったし、成人できないって昔から言われてたから、いつか死ぬこと、ずっと意識してたけどさ。君、普通の子でしょ? いつか自分が死ぬなんて考えたことある?」

「……いや、あんまりない」

 せいぜい学校で飼っていたウサギが死んだとき、死についていろいろ考えたものだがただそれだけのこと。
 日常的にそんなことを考えたことなんてない。

「でしょ? おれと君ではもともと心構えが違う。だから、死んでも気付けなかったんだよ。自分が死ぬことなんて想定してないんだから」

 真剣にそう言って青年は口をつぐんだ。
 その視線の先で鬼面を頭につけた男がお祭りにはしゃぐ子供たちを優しく見つめている。

 決して安物ではないお面をしているところを見ると、彼もまた少年たちと同じなのだろうか。

「もしかして、あの人も?」

「うん、去年初めて会ったんだ。子供がいたんだって。だからお祭りになると子供たちを見守りに来るみたい」

「……そっか」

 優しそうな人だ。スーツを着ているから生前は会社員だったのだろう。
 きっとどこにでもいる、朝は通勤ラッシュに揉まれて、休日は公園で子供と遊ぶような、きっとそういう普通の人だったはずだ。

 あんな普通の人でも唐突に死ぬことがある。
 当たり前のことなのだが、あまりにも当たり前すぎて忘れてしまうこと。

 少年も自分が死ぬことを真剣に考えたことなどあまりない。
 けれど、意識していてもしていなくても死んでしまう。事実、少年は今はもう死んでしまっている。

 もしかしたら、意識的に死を締め出しているのもあるのかもしれない。
 死ぬことばかりを考えて生き続けることなど出来ないから。

 でも、今は? 
 死んだ今は何を考えればいい?

「俺、いつから死んでたんだろ」

 記憶のある限り、昨日までは確かに人と話していたはずなのに。

 朝は母におはようと言った。
 学校で友達と受験のことを話して。それから面倒くさいと思いつつ塾に行った。
 夜は帰ってきた父におやすみを告げて。
 また明日も普通に同じような日々が続くと信じて眠りについた。

 気付かずに失っていたもの。当たり前すぎて気付けなかったもの。
 昨日までのことは全部夢だったのだろうか。

 今までのこと、全部が幻だったのだろうか。
 何もかもが分からない。分からないことが気持ち悪い。

 うつむく少年の隣で青年が空を見上げる。
 祭りが始まった頃はまだまだ明るかった空が、今はもう一面の星空に彩られていた。

「もしかしたらずっと、今になるまで時が止まっていたのかもしれないね」

 少年の時が死んだときのまま、今日の今日まで止まっていたのかもしれない、と青年が言う。

 例えそうだったとしても。

「……なら、なんで今日だったんだ?」

 ――何故、この祭りの日だったのだろう
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