愚者の仮面

スポンサーサイト

--/--/-- --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Top ▲

宵祭之事<弐-壱>

2013/03/06 22:16

「まぁ、簡単に言えばおれ、ざっと十年ぐらい前に死んだんだよね。病気でさ。なんか思い出すことっていったら病室のベッドの上で綺麗な空見たなぁ、とか、お祭り行ってみたいなぁ、とかそんなこと思った、ってことばっかり」

 拝殿の階段に腰掛けて――少し罰当たりな気もしなくもない――二人は祭りを楽しむ人々を眺めていた。
複雑な想いを抱きながら生きている人々を眺める少年とは異なり、青年の瞳はただ優しい。

「外に出たくても出れなかったし、ある意味死んでからの方が楽しんでるかも。それでもさ、いろいろ歩き回れて見たかったものも沢山見れても、どうしても人と話すことだけは出来なかった。当たり前だよね。視えてないんだから」

 はは、と笑う姿に気負う様子はない。
 もう既にそれが当たり前になってしまったからなのだろう。けれど、それは寂しいことではないのだろうか。少年にはまだよく分からないけれど。

 青年は誰かが落としたのであろう線香花火に手を伸ばして、しかしそれに触れられずに指先が地面へと沈むのを自嘲気味に笑って、少年へと向き直った。

「だから、おれは死者相手にお祭りで屋台を出した。金魚はまぁ、ちょっとパチもんなんだけどね。でも、いいアイデアだろ? だっておれが視える、ってことはおれとおんなじなんだから。視えれば話せる。話せれば、おれでも人と触れ合える」

 生前、人と話したことなんて両親以外だと医者ぐらいしかいない、と青年は言った。
 どれほど重い病気だったのか聞く気にはなれないけれど、もしかしたら学校すらいけないほどのものだったのかもしれない。少年は入院なんかしたことないから分からないけれど、普通友人くらい訪ねてきそうなものだ。

 その友人を作る機会すらなかったのだとしたら、青年はずっと一人だったのかもしれない。
 今も、昔も。

「そんで気が付いた。おれって生きてても死んでても独りだったんだなぁ、って。だから嬉かったよ、君がおれに気付いてくれて」

「……そりゃ、どーも」

「それはこっちの台詞だな。お礼を言うべきはおれの方だよ。やっぱり死んだ人って結構年食ってるわけでさ。同年代の子と話せる機会なんてそうそうないんだよね。だから」

 明るく青年が言った。

「友達になりたかったんだよね。だから、話しかけちゃった。まさか死んでることに気付いてないとは思わなかったけど。でも、普通わかんないよね、そんなこと。なんか分かってなさそうだなぁ、とは思ってたけど」

 ふふっ、と青年が思い出し笑いを浮かべた。たしかに全てを分かっていた青年には少年の姿は大層奇妙なものに見えただろう。

 死んでいることにも気付かず生前の友人に声をかけ、気付かれなかったことに眉を寄せる姿は滑稽以外の何者でもない。
 そういえば、こっちに来るときに人とぶつかって謝ったものの、それに気付かれないで返事が返ってこなかったこともあった。
 あの時は普通に無視されたと思ったのだが……あれはただ見えなかったし聞こえなかっただけ。
 嬉しくないことばかり符合する。

 でも、ただ、ひとつだけ。

「……ねぇ、なんで俺、死んでることに気付かなかったんだろう」

 ひとつだけ疑問なのは死んだことに気付かなかったことだ。
スポンサーサイト
Top ▲

comment

comment

comment form

Passのない投稿は編集できません

Trackback

Trackback URL :
http://thefoolpersona.blog136.fc2.com/tb.php/183-1f629689

Copyright (c) 愚者の仮面 All Rights Reserved.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。