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宵祭之事 <壱-弐>

2012/12/03 22:06

 けれど、そんなことよりも久しぶりの金魚すくいに心が躍った。幼稚園の頃、父の隣で水面を見つめていたことを思い出す。確かあのときは一匹もすくえなくてべそをかきながら帰ったっけ。

 しゃがみ込んで水の中を泳ぐ金魚に目を凝らした。
 ゆらゆらと揺らめく水面の下、たくさんの金魚がすいすい泳ぐ姿は壮観ともいえなくもない。

「……よっし」

 気合いを入れてすい、と薄い紙を水面につける。
 そして手前の方を泳いでいる大物に目を付けて……二秒後にはポイに大きな穴があいた。

「…………」

「……お兄さん、下手くそだねぇ」

 翁面が笑っていいのか呆れればいいのか微妙な声で言う。
 文句を言いたいがもっともなことなので言えない。気まずい沈黙が満ちる。

「……もう一回やっていい?」

「もういっそすくえるまでやろう」

 そう言われて2つ目のポイを渡される。

「あんま長く水につけると破けやすいからね。水面近くに来たできるだけ小さいやつを慎重にすくう。焦んないことが大事。他に客もいないし、時間は気にしなくていいから」

「ん」

 流石屋台をやっているだけあって翁面の言うことはもっともである。
 その教えを胸に刻み込み、静かにそのときを待つ。

 五分、十分、時が過ぎる。
 人が訪れない本殿前はひたすら静かで、集中するには良い場所だった。
 喧噪を遠く聞きながら、少年は水面を見つめ続ける。

 そして、そのときが来た。

 ふっ、と赤い鰭が水を切る。
 水面が小さく揺れて赤い影が姿を現した。
 小さな赤い金魚。それが見計らったかのように少年の目の前を悠々と泳いでいる。

「よっし」

 もう一度ポイを水につける。
 そして、破れないように慎重に、しかし確かに赤い魚の下へ薄い紙を忍ばせた。
 素早く器を手元へ寄せる。

「……やった!」

 すくえた。

 器の中、赤い小さな金魚が身を捩っている。
 その姿に小さく笑みをこぼしてから、

「よし!」

 と、もう一度気合いを入れてポイを水面へと差し込み……速攻で穴があいた。

「…………」

「はは……まぁ、一匹とれて良かったね」

 力が抜けたように笑って、少年は器を翁面の男に手渡した。
 器を受け取った彼は、慣れた手つきで一匹の金魚を袋へ移す。
 そして、きゅっと赤い紐を引っ張ると少年へと手渡した。

「ほい」

「ありがとう」

 落とさないように慎重に受け取る。
 たった一匹しかない収穫だったが、手にある重みは大きい。
 それは多分、小さくともそれが命だからなのだろう。それも自分に委ねられた。

「ちっさいなぁ」

 水の入った袋を目元まで掲げる。透明な水の中、ふよふよと泳ぐ姿に目を凝らす。
 こちらがじっと見ていることに気付いたのか、金魚が少年の方を向いた。

 その瞳がぱちくりとまばたきをする。

「……は?」

 瞬きをした?

 いくらなんでもそんなことあるはずがない。
 魚にまぶたなんかないのだから。
 そもそも瞳を濡らす為のまばたきを、水中の魚がする必要なんてない。

 昔どこかで見た絵本には、まばたきをする魚は妖が化けているものだと書いてあった。
 それを信じているわけではないが、目の前の事実の現実味のなさに背筋が寒くなる。

「いやいやいや、見間違いだって」
 
 そう言った矢先に。
 ぱちくり。金魚はもう一度瞬きをした。
 
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