愚者の仮面

スポンサーサイト

--/--/-- --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Top ▲

宵祭之事 <壱-壱>

2012/11/28 21:35

 薄汚れた幕に書かれているのは「きんぎょすくい」の字。
 その下には簡易なプールのようなものがあって、そのなかで赤い金魚がすいすいと泳いでいる。

 当然ながら客はいない。
 というか、そもそも誰もこんなところに屋台があるとは思っていないだろう。
 人っ子一人いない場所に露店を広げる方がおかしい。
 
 いかにも怪しげな屋台だ。暗がりに落ちてよく見えないが、面をつけた男が暇そうにしている。

 変に目を付けられないうちに戻ろう、ともういちど人混みへと足を向けた。

 しかし。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、よかったら一回やらない?」

 残念ながらもう遅かったようだ。屋台のあった方から若い男の声が聞こえた。

 無視をするのも気が引けて、仕方なくもう一度屋台を見る。
 簡易な骨組みの向こう、翁の面を被った男がこちらへ手招きしていた。

「どーよ、金魚すくい」

「……悪いけど、興味ない」

「そう言わずにさぁ。いいじゃない、ちょっとぐらい」

 しつこく食い下がる翁面の男にそっけなく手を振って、少年は再び人混みへと目を向けた。

 すると、そこには見知った顔が幾人か集まってなにやら楽しげに談笑している。
 皆楽しそうに祭りに紛れ込んでいた。どうやら少年と同じことを考えた奴らもいたらしい。
 柔らかな空気の中、彼らの手の中のリンゴ飴やわたあめ、たこやきの匂いがこちらまで漂うようだ。

「おい、タカヤ! ヒロキ!」

 少しだけ大きな声で呼びかける。
 しかし、友人たちは気が付かなかったようだ。こちらを振り向くことなく、騒ぎの中心へと歩いていく。

「あれ? 気付かなかったか」

 すると、翁面の男が呆れたように言った。

「当たり前だよ」

「まぁ、距離あったしな……聞こえないか」

 そうでなくても人混みの喧噪にお囃子の音がしている。気が付かないのも無理はない。
 追いかけてまで話したいことなどなかったから、それほど残念にも思えなかった。
 また明日になれば学校で会えるのだし。

 しかし……

「なんでアイツ高校の制服着てるんだろうな?」

 少年たちの通っている中学の制服は黒の詰め襟だ。
 夏の今はただのYシャツだが、先ほど見かけた友人たちは黒のスラックスこそ少年と同じものであったが、Yシャツに濃紺のネクタイをしていた。

 それは少年の目指す公立高校の制服のものだ。

 考えられる理由としては補導対策か。
 中学生は六時に強制帰宅させられる。まだ五時だがこう行った場所で過ぎる時間とは早いものだ。
 それを思えば高校生に化けるという彼らの企みは理解できなくもない。

 たしかタカヤの兄はあの高校の生徒である。
 夏の今はネクタイをくすねるだけで十分ごまかせるだろう。

 このことを明日学校でからかってやろう。そう意地悪く考える。

 くくく、と少年が喉で笑うと、ふふふ、と翁面が笑った。

 「……なんだよ」

 そういえば何故この男はこんなにも親しげに話しかけてくるのだろうか。苦々しい気持ちで翁面を見遣る。しかし、彼はそれを気にも止めずにこにこと口を開いた。

「いいや、気付いていないんならいいんじゃないかな。それよりもさ、ほら、金魚すくいやっていかない? 暇なんだよ」

「俺、金持ってないんだけど」

「別にいいさ。ほらほら」

 はい、と半ば強引に金魚すくいのポイと器を渡される。

 翁面の向こう、黒い双眸が笑った。
 その笑いには何か裏がある。なんとなくそう思った。
スポンサーサイト
Top ▲

comment

comment

comment form

Passのない投稿は編集できません

Trackback

Trackback URL :
http://thefoolpersona.blog136.fc2.com/tb.php/173-31f631b4

Copyright (c) 愚者の仮面 All Rights Reserved.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。