愚者の仮面

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宵祭之事 <零>

2012/11/20 23:10


 にぎやけし宵の空に光が舞う。

 その下で浴衣姿の少女たちが楽しげに談笑しながら通り過ぎた。
 そのたびに色とりどりの屋台が沸き立つように声を上げる。遠くからは太鼓の音。
 親に林檎飴を買ってもらったのか、短パン姿の少年が嬉しそうに笑って色の洪水を駆け抜けた。

 今日は町で一番大きい神社で夏祭りが行われている。
 普段は静かなこの町も、今日ばかりは提灯の明かりに誘われて宵の祭りを楽しんでいた。

 そんな柔らかい光に包まれた喧噪の中、ゆっくりと神社の階段を上る影がある。

 この町にある中学校の制服に身を包んだ少年が、一人きりで神社の境内へと向かっていた。
 ポケットに手を突っ込みながら石段を登り、とにかく人の声がする方へと進む。

 空を時折飾るのは色とりどりの花火だ。
 空に花が咲く度に、至るところから歓声が沸く。
 そのことに時折笑みをこぼしながら、人の波を縫って少年は階段の頂上に降り立った。

 階段を上りきるとそこは神社の境内だ。

 塗装の剥げかけた鳥居の足下でいくつかの小さな花束が転がっている。
 きっと供え物か何かなのだろう。

 その先、朽ちかけた鳥居の向こう、拝殿に続く石畳には人がごった返していた。
 自分もその中に入ろうと少年が一歩踏み出す。
 すると、まるで見計らったかのように脇から声がかかった。

「よろしければこれをどうぞ」

 そう言って、それは少年に狐面を差し出した。

「どーも」

 特に断る理由が思いつかない。
 一応面を受け取って、少年はまじまじとそれを渡してきた相手を見つめた。

 それは天狗の赤い面を被っていた。

 感情が見えない不気味な黒い目が真っ直ぐに少年へと向けられている。
 しかし、格好は黒い着流しという祭りには至って普通なもので、それが逆に違和感として猛烈な存在感を放っていた。

 だが、そんな恐怖よりも単純に好奇心が勝った。

「なぁ、アンタ。そんなん被ってて暑くねーの?」
「呼気が籠もるので苦しいと言えば少し……大したことではありませんが」
「ふーん……まぁ、有り難くもらっておくよ」

 白い狐面を頭に乗せ、少年は先に進む。

 境内の中を歩いていると、様々な面を被った人間とすれ違った。
 子供ならばアニメのキャラクター、大人ならば般若やひょっとこ、鬼面などと様々である。
 そんな中だから、少年の面姿も特に目立たない。

「あ、すいません」

 あまりにも人が多すぎて頻繁に肩がぶつかる。
 少年は反射的に謝ったが、ぶつかられた方は気付かなかったかのように友人と談笑を続けていた。
 確かにこれだけ人が多いと、今更ぶつかられてもなんとも思わないのかもしれない。

 相変わらず一人で少年は先へと進む。

 別に彼自身は誰かと待ち合わせているわけでもないし、もちろん祭りへ遊びに来たわけでもない。
 ただ、本当に何となく、それこそ活気に誘い出されるように此処へ来た。
 そんな目的もない物見遊山な散歩だから、特に屋台に興味は向かない。

 強いて言えば願掛けか。

 少年は今中学三年生で、当然のように高校進学を夢見ている。
 特別何かやりたいことがあるわけではないが周りに流されるまま、地元にある中堅高校への進学を目指していた。
 今日は勉強ばかりの日々からほんの少しだけ抜け出して、息抜きをしに祭りへ迷い込んだのである。

 少しだけ友人たちも誘うか迷ったが、皆塾だの予備校だので忙しい。変に誘うのもはばかられた。
 別に少年自身暇だと言うわけでもないのだ。
 友人たちの忙しさも身に染みて分かっているし、ほんの少しだけ周りを見回ったら帰ろうと思っている。

 参道を進む。
 奥に進めば進むほど人通りが減ってきた。

 当然といえば当然だろう。

 奥には神社の拝殿があるため、その周りで屋台を出すことは禁じられている。
 こんなところには参拝に来ている人間しかこない。
 とはいえ今日はお祭りだ。
 皆明るい屋台の光に誘われて参拝に来る人間もあまりいない。

 けれど、そんな拝殿の目の前、人目もはばからず堂々とひとつの屋台があった。
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