愚者の仮面

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予行列車<現>

2012/04/06 23:16

 はっと目が覚めた。

 枕元のケータイから流行曲のサビが鳴り響く。
 頭に響くそれを事務的な動作で止めて、私はそっとカーテンを開いた。

 暗闇に慣れた目が明るい陽射しに灼かれる。
 段々と冴えていく頭の端で、さっきまで見ていた何かを思い返す。

 ひどく奇妙な夢を見た。

 学校に向かう奇妙な電車。
 赤い列車が見せた苦痛な未来。
 そして、青い列車が見せた悲痛な未来。

 確か白い電車に飛び乗った辺りで目が覚めてしまったため、妙に収まりが悪い。

 汗で湿ったTシャツを脱ぎ、制服を手に取る。 
 とにかく早く学校に行って、香織と話がしたかった。

 


 いつもよりもずっと早めに学校へ到着した。

 冷えた朝の空気の中、校庭ではサッカー部が朝から元気に走っている。
 そこにはもちろん彼の姿も。
 彼はこちらに気付いたのか、人なつこい笑みで手を振ってくれる。

 それに軽く手を振りかえし、甘酸っぱい想いを抱えて私は教室に向かった。

 そして、教室には思った通り香織の姿があった。
 彼女は喧嘩して以来、私と顔を合わさないように早めに学校に来ている。

 香織は窓に寄りかかって校庭の彼の姿を眺めているようだった。

「おはよう、香織」

 私がそう声をかけても彼女は顔をしかめただけで何も言わない。
 しかしそれぐらいは予想の範囲内。
 それにどうせしばらくは誰も来ないだろうと構わずに話し続ける。

「私ね、幼稚園の時から彼のことが好きなんだ」

 香織が驚いたようにこちらを見る。
 何も言わないけれど、その顔が驚きに満ちて私の言葉を待っている。
 それに軽く微笑み返して続けた。

「香織は知らないだろうけど、私ずっと浮いてたの。友達もあんまりいなくて。でもね、彼が手を引いてくれて、それでやっと仲間の輪に入れた。それからずっとずっと好きなの」

 ずっとずっと抱え込んでいた想いを吐き出す。
 ただそれだけのことなのに酷く頭が重たくて苦しい。

「好きなんだ。私は香織とは違う理由で、彼が好きなんだよ」
  
 それと同時に、すごく心が軽くなっていく。

「……ごめん」

 ぽつりと香織が呟いた。

「なんで謝るの? 私がもっともっと早く言っておけば良かったんだ。言っておけばこんなことに……」

「でも、わたし……美穂の話聞こうともしなかった」

 そう言う彼女の瞳から一筋の涙が流れる。
 瞬きをするたび、香織の白い頬を雫が伝う。

 声も立てず涙を零す彼女に、どうしようもなく心が揺れる。

「……香織、別に泣かなくても」

 そう言うと香織は奇妙な顔を見せた。
 そして、真っ直ぐこちらを見て少しだけ笑って言った。

「美穂だって」

「えっ?」

 香織に指摘されて頬に手を遣ると、濡れている感触。

「美穂、ごめん……ごめんね」

「うん、私もごめん」

 そして、二人で馬鹿みたいに泣いた。
 というか、本当に馬鹿みたいだ。

 全て素直に話していれば、こんなことにならなくて済んだかもしれないと思うと、バカバカしくて涙が止まらなかった。




 始業ぎりぎりで彼が教室に飛び込んでくる。

「おはよー」

「おはよう、朝練お疲れさま」

 彼が「ありがとう」と言って笑う。
 そんなささやかな笑顔ですら自分に向けられたものだと思うと幸せだった。

「そういえば今日は朝早かったんだな。なんかあった?」

「ううん、特になんでもないんだ。ただなんとなくで」

「ふーん、その割にはなんか嬉しそうだけど」

「えっ?」

 それが指しているのは香織との仲直りのことなのか。それとも彼への想いなのか。
 彼の笑みを見ていると惑わされるばかりで何も分からなかった。

 狡い笑みにまた心を囚われる。






 奇妙な夢を見た。
 それはきっと私に未来を選ばせ、そして乗り越えるきっかけを与えてくれた大切な予行だったのだろう。

 とりあえず、明日は彼に告白をしてみようと思う。

 今度は、今度こそは2人で。


 <了>
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