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予行列車<想>

2012/03/26 22:56

 電車が駅に到着する。
 私を追い出すように青い列車の扉が開く。

 そしてホームに出てみれば、私を挟み込むように赤い電車と青い電車が口を開けて待っている。

「……選べないよ」

 赤い列車は私の想いが香織に切り捨てられる未来を見せた。
 青い列車は私が香織の想いを切り捨てる未来を見せた。

 私の想いと香織の想い。

 どちらかを選べと、どちらかを切り捨てろと、何かが告げる。
 彼と親友、どちらかを選べと私に未来を突きつける。

「選べるわけないじゃん」

 私も彼女も彼も、誰も大好きで誰も切り捨てたくない。
 
「イヤだ、イヤだよ……」

 いつも一緒にいる彼女の存在が隣にいないことが怖い。

 何故私は独りなのか。
 彼女と私は同一なのに、それから外れようとしたから?
 それがいけなかったのだろうか?

「でも、だって違うんだもん」
 
 涙が流れる。
 今までこらえていた想いがとめどなく溢れてくる。

「香織と私は確かに似てるけど違うもん……! 彼のことが好きな理由だって……」

 私と香織は違う。
 当然だけど、どんなに似ていても私と彼女は同一ではないのだ。


 私が彼を好いているのは幼稚園からだった。
 香織は小学校からこっちに転校してきたから知らないだろうが、私はずっと彼のことを好いていた。
 
 当時、私は鈍くさい子供であまり外で遊ぶことはなかった。外で走り回るよりは、室内で絵本を読んでいる方が好きな子供だった。
 というよりはみんなの迷惑になるのがイヤで、あえて外で遊ばないようにしていたのだ。
 幼くしてそれに気付く子はいなかったし、別にそれでよかった。

 そのままみんなの輪に入りづらくなったのは寂しかったけど、それでよかったのだ。
 
 でも、そんな私を彼は気にして、独りにならないように手を引いてくれた。

「一緒に遊ぼうぜ」

 そう笑って言って、自然にみんなと一緒に遊べるように導いてくれた。

 きっとそんな昔のこと、彼は覚えていないだろう。 
 それでも、あの時彼がいてくれたから、今も私は独りにならずに済んでいるのだ。

 ここでは幼稚園から高校まであまりメンバーが替わらない。
 つまり一度その輪から外れてしまえば、ずっと輪に戻れない可能性だってあった。
 実際、小中で独りになりがちだった子たちはわざわざ遠方の高校に通っている。
 仲間意識が強すぎる私たちは、仲間以外と接することが上手くない。

 あのとき輪に入れていなければ、私はこの土地に留まり続けられなかっただろう。

 彼にはずっとずっと感謝している。
 その感謝が恋心に変わるまで、そんなに時間はいらなかった。

 それに対して香織は中学でサッカー部に入った彼の姿に惚れたらしい。

 確かにサッカーに打ち込む彼の姿は格好良かった。
 香織とたびたび試合を見に行くこともあったが、視線はもう彼に釘付けで二人できゃーきゃー騒いでいた。
 
 私は彼の気遣いのあるプレイが好きだった。
 少し離れてフォローに回る仲間に見せ場を与えようとパスを回す姿。積極的にチームメイトに声かけをして、空気を作っていく暖かさ。
 それが大好きだった。

 香織は彼がゴールするたびに歓声を上げていた。
 おそらく、チームのエースとしての彼が好きだったのだろう。
 確かにその姿も格好良かったけれど、私にとって意味があるのはそういうことじゃない。

 今も優しい彼が好きだった。
 誰かに向けられる優しい笑みを私にも向けてほしかった。

 香織が彼のことが好きだと私に打ち明けてくれたとき、「私も」と私も彼が好きだと打ち明けた。
 彼女は笑って「やっぱりわたしたち同じだね」と笑った。
 それからサッカーをする姿が格好良いだとか、勉強できるところが良いとか、憧れに満ちた想いを彼女は語った。

 そして、こう言ったのだ。

『美穂も同じでしょ? サッカーするところカッコいいから好きになったんでしょ?』

 そう言って、彼女は私の否定の言葉には取り合わなかった。
 「もう、恥ずかしがっちゃってー」とか「いいよ、分かってるから」とか、そういう言葉で香織は私の想いを聞いてはくれなかった。

 だから悔しかったのだ。

 だから、本当はまだ踏ん切りがついていなかったけれど告白をしようと決心した。

 その結果がこれだ。
 香織は怒って私と口を利いてくれなくなった。
 私も意地で彼女と関わらなくなった。

 けど、やっぱりいつも一緒にいた香織のいない生活は寂しかった。

「香織……」

 いるはずもない彼女の名を呼ぶ。
 呼んでも返ってこない返事を待つ。

「選べるわけないじゃん」

 力なくそう呟くと。

 今まで扉を開いて私が乗るのを待っていた赤い電車と青い電車が唐突に動き出した。
 ガタンガタン、と騒がしい音を立てて列車が去っていく。
 その姿がだんだんと小さくなっていく。

 そして、私は相変わらず無人の駅に独り取り残された。

 このままでは帰れない。
 根拠のない絶望が胸を埋め尽くす。

 そのとき。
 
 向こうから聞こえてくる車輪の音。

 白い電車がホームに滑り込んでくる。
 来るときに乗ってきたあの白い電車だった。
 
 そして、それは私を誘うように静かにその扉を開いた。

 すがるように白い電車に飛び乗る。

 白い電車がどんな未来を見せてくれるかなんて分からない。
 けれど、少しでも可能性があるのなら。

 香織との未来が見られる可能性があるのなら、その可能性にかけてみようと思うのだ。

『――未定行き、未定行き、発車します』
 
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