愚者の仮面

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予行列車<青>

2012/03/20 21:44


 かたん、と小さく揺れて電車が停まる。
 ゆっくりと目を開けると先ほどのホームに帰ってきていた。 

 校庭に人はいない。車内にもホームにも人はいない。
 けれど、そのことに妙に安心する。
 今は誰にも会いたくなかった。

 ホームへ降りると、そこには来たときに乗ってきた白い電車がなかった。
 事務的に扉を開けた赤い電車から降りると、白い電車の停まっていた向かい側のホームに青い電車が私を招くようにドアを開けている。

 勢いに任せて青い列車に飛び乗る。
 とにかくこの赤い列車に乗っていたくなかった。
 あんなもの、もう二度と見たくない。
 
 すると、私が乗るのを待っていたかのように、青い電車はゆっくりと動き出す。
 電車は望みもしないのに、先ほどと同じようにゆっくりと校舎へと進む。

 けれど、さっきのような悪寒は感じなかった。
 あるのは一抹の寂しさ。
 そして、ほんの少しの温かい喜びだった。

 その感覚を胸に抱いたまま、やはり赤い電車と同じ道を進む景色を眺める。
 
 さっきのことから、これから起こることは薄々予想がついていた。
 私が考えていたことをこの世界の「私」が実行する。そして、それによってもたらされる結果を見せる。
 それがこの電車の目的なのだろう。 

 ならば、もうひとつ私が考えていることの末路を「私」が見せてくれるはずだ。

 当然のように列車は私の教室で停車した。
 先ほどと同じく扉は開かない。ただ、これから起きることを車内から見つめるだけ。

 教室の中にはやっぱり「私」がいた。
 そわそわと落ち着かないように、何度も手鏡髪型をチェックしてはため息をついて誰かを待っている。
 
 ……誰か、なんて考えるまでもない。

「        」

 ガラガラ、と力強く教室のドアが開いて、私たちの思い人である彼が姿を現した。
 何か言っていたのだが、電車の中では彼の声が聞こえない。
 ただ、足音や「私」の緊張した息遣いだけが聞こえている。

「             」

 「私」が何か言う。
 私には聞こえはしないが、おそらく「ごめん、いきなり呼び出して」とでも言ったのだろう。

 その言葉に対して彼が笑う。

「                」

「            」

 聞こえなくとも何かを言って「私」はうつむいた。
 その顔は夕日に劣らず真っ赤に染まっている。

 それを見守る彼の顔には薄い笑みが浮かんでいた。

 そんな顔を見てしまうと、自分がどうすべきなのか分からなくなる。
 親友である香織を優先すべきなのか、それとも自分の感情の任せるままに行動すればいいのか。

 どっちも大切なのに、どちらか選ばなければいけないと言うのか。

 苦悶する私には構わず「私」は赤い顔で慎重に言葉を紡いでいく。
 
「          」

 短くとも想いの籠もった言葉。

 「私」はきっと必死だろう。
 自分の想いを伝えきるのには言葉が足りない。
 想いのたけを全て伝えるには伝達能力に限界がある。

 それでも、伝わると信じて。

 真っ赤な顔でうつむく「私」には、きっと今の彼の顔が見えていない。
 それはなんともったいないことか。
 穏やかな彼の顔をこんな至近距離で眺められる機会なんて、そうそうないだろうに。

「     」

 彼が一言口を開いた。
 そのはにかむような笑みに思わず見惚れてしまう。

「           」

 なんと言ったのだろうか。
 彼の一言に「私」の表情が明るくなる。

 言葉が聞こえないことを恨めしく思う。
 あの人の声が聞きたい。あの顔で「私」に何を言ったのだろう。

 それはきっと、私が選べば聞くことの出来る言葉。

 ――香織を切り捨てれば、聞くことが出来る言葉だ。

「選べって言うの……?」

 口から出た声は震えていた。

「こんな未来のどちらかを選べってことなの!?」

 誰も私の叫びに応えることなく、無情にも青い電車が動きだす。
 心地よい揺れと共に、車輪が回る音が響く。
 彼と「私」が照れくさそうに言葉を交わす教室が遠ざかる。

 提示された2つの未来。
 どうしてもと言われれば、どちらを選ぶかなんて決まりきっている。

 私は青い列車の見せた未来を選ぶだろう。
 自分の幸せを追い求める。
 それは人として当然のこと。

 でも……

 そこには香織の姿はなかった。
 私の未来に、彼女と微笑み合う世界はなかった。
 
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