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沈む想い

2011/09/26 16:02

テーマ「孤独」 お題「サルガッソー・海の中の蜃気楼」




 碧緑の海。
 俺と彼女が出会い、恋をした海。

 そして、別れを告げる海。

 その浜辺で彼女は慟哭した。

「ごめんなさい……ごめんなさい!」

 そう言って彼女は指輪を投げた。
 俺が贈った銀の指輪が、緑色の水面に波紋を広げる。沈む。

 気泡がぶくぶくと海面に浮かんだ。
 やがて、浮かんだ泡も静かに消えていく。

 俺の想いごと、淡く消えていく。

「さようなら」

 別れの言葉を告げて彼女は走り去った。
 きっと泣くのだろう。湿った声は溢れんばかりの悲しみを秘めていた。

 いつか結ばれるのだと信じていた。
 それが子供の口約束に過ぎないとしても、何処かで俺は彼女と結ばれると心の中で頑なに信じていたのだ。

 けれど、彼女はこの国の姫君。俺はしがない漁民の息子。

 あまりにも身分が違いすぎた。

 姫には婚約者がいる。
 俺なんかよりもずっと立派な、隣の国の王子様。

 俺があげたおもちゃのような指輪じゃなくて、サファイアのような彼女にお似合いの海色の指輪が、王子にならあげられるはずだ。

 もう人を愛すことはないだろう。

 彼女以外の誰かを愛することなど、俺にはできそうもない。
 彼女以外の誰かと結ばれるぐらいならば、永遠に孤独で構わない。

 だからこそ、あれだけは捨てられそうになかった。

 大きく息を吸う。思い切って緑色の水面に飛び込んだ。

 思い出の指輪。
 あれだけは手元に残しておきたい。

 見る度に彼女を思い出して辛くなるだろう。
 このまま水底に沈んで、思い出ごと浚ってしまったほうがいいのかもしれない。
 全て水に流してしまえば、もう苦しむことはないのだから。

 それでも、俺は彼女との思い出をなかったことにしたくない。

 藻が多く群生するこの海に入れば、その蜃気楼に惑わされて視界が利かなくなる。
 溺れれば生きて戻ることはない死の海。そう呼ばれるほど、この碧の海は多くの命を飲み込んだ。

 その蜃気楼の中で光輝くものに手を伸ばす。

 幼くとも想いを込めた。
 一緒にいられたら、と祈った。

 この指輪は俺の想いの象徴だ。

 あと少し。届かない指先を歯がゆく思う。
 口から空気が漏れた。息が苦しい。視界と意識が霞む。

 ああ、もうだめかもしれないな……

 そう思った途端、指先に触れた固い感触。
 思わず笑みが零れた。

 この想いとともに逝く。

 それがとても魅力的なものに思えたのだ。

 沈む体と思考。
 緩やかに訪れる死の波音が遠くに聞こえる。

「……!」

 誰かが俺を呼ぶ声。
 彼女の声に聞こえたけれど、きっと気のせいだろう。

 意識が消え逝く直前。

 細い手が俺を掴んだような気がした。
 
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