愚者の仮面

スポンサーサイト

--/--/-- --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Top ▲

祈りの声が逝き着くは

2011/09/07 22:40

テーマ「神話・バロメッツ・糧としての血」




 ぼんやりとした意識の中、それはゆっくりと目を覚ました。

 それが周りを見渡せば、枯れ色の草はさわさわと揺れ、自分の目覚めを喜んでいるようでもある。水分を失った土が、足下で乾いた音を立てた。
 次いで耳元で小さな歓声が上がり、誰かの囁きが耳朶を打つ。少し騒がしかった。

 未だ意識は薄らいでいたが、やるべきことは分かっていた。
 そうせねばならない。そうとでもいうように最初から分かっていた。

 雨を降らせなければならない。
 その声だけが内から響いてくる。そして、それを行うだけの力が自分にあることも分かっていた。

 けれど、酷く億劫だ。

 体は鉛のように重く、指先一つ動かすのもままらない。意識は霧の中にあるようで、考えがきちんとまとまらない。

 まずはこの状況をなんとかせねばならなかった。

「腹が減ったな……」

 それはそう呟いて。
 手元にある、枯れ草の間から生える実を手にとった。

 その実も随分と干からびていた。最初は水分をたっぷりと含んでいただろうその胴も、はっきりと中身の形が浮き出ている。
 褐色の実がそれの手の中でびくんと跳ねた。

 しかし、そんな得体の知れないものでも、この飢えを満たせれば何でも良かった。
 貪るようにそれを食らう。まだ僅かに残っていた果汁が、赤く顎から滴り落ちた。
 次から次へと。周囲にいくつも転がっているその実を食らう。乾いた土が赤く湿っていくほど、夢中になって貪る。

 やがて、それは満足したのかその手を止めた。
 その時にはもう周りに実は1つとして残っていない。その食べかすが転がっているのみだ。

「貴殿らの祈りに応えよう」

 満たされた思いでそれはそう告げた。

 その声と共に雨が降る。恵みの雨が降る。
 透明な雫が乾いた草に、木に、土に降り注ぐ。染み渡っていく。

 しばらくすれば、その地はかつての姿を取り戻した。

 乾いた土の上には湖が現れ、緑色の草が生い茂る。その頭上では緑の葉が揺れて、その間から青い鳥が顔を出す。

 しかし、それを喜ぶ声はない。

 血はすべて湖へと流れて消えた。人の欠片は水底へと沈んでいった。

 そこにあるのは平穏だけだ。
 青い鳥がさえずり、緑の葉が瑞々しく揺れ、それを食べにきた動物たちの楽園。
 湖の中では、色とりどりの魚たちが人の手足を啄む。

 人の住まないこの場所。
 美しいものに触れられず、文明の火は朽ちた。

 青い空の向こう側へと、神の足音が遠ざかる。 
 
スポンサーサイト
Top ▲

comment

comment

comment form

Passのない投稿は編集できません

Trackback

Trackback URL :
http://thefoolpersona.blog136.fc2.com/tb.php/131-0aaad4d4

Copyright (c) 愚者の仮面 All Rights Reserved.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。