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願い届いて

2011/08/15 21:50

 1000字 テーマ・お伽噺 「錆び付いた注射針」




 崩れかけた教会の中を少女が足取り軽く進みます。
 足下に散らばった銃弾、錆び付いた注射針を踏みにじり、誰かの頭蓋骨も蹴り飛ばして、彼女は奥へと進みます。

 外で飛び交う銃声。低い怒号と叫び声。しかし、そんな嘆きも少女の耳には届いていないようでした。
 
 ステンドグラスの光の下、微笑みを絶やさない聖母像に少女はうっすらと笑みを浮かべました。そして、小さな手のひらを組み合わせ、真摯な声で囁きます。

「マリア様、わたし欲しいものがあるの」

 もう捨てられた教会。見捨てられた神。そこに信仰などあるわけがありません。信仰がないのだから、神がいるはずなどないのです。
 それでも、そんなことは少女には関係ないのでしょう。真剣に願いを告げます。

「あのね、ガラスの靴が欲しいの……それにリンゴも!」

 ガラスの靴を履いた女の子。キスで目覚めるお姫様。
 それに、もっともっとたくさんの物語の女の子。いつか聞いた、幸せが約束された世界を生きる彼女たちに、少女は憧れていました。

「幸せになりたいの。きっとあの子たちみたいになれれば、王子様が迎えにきてくれるわ。わたしも御伽噺の主人公になりたい!」

 幸せな最期に辿り着ければそれでいいのです。それさえ約束してもらえれば、少女はどんな辛い道行きも行けます。銃弾をくぐり抜けてでも、砂塵の舞う中だとしても進めるのです。

「もう寒いおうちはイヤよ。こんな真っ赤な街も嫌いよ。誰か助けて。ここからわたしを連れ出して!」

「神様が助けてくれると信じているのかい、お嬢ちゃん?」

 叫んでも聖母は片目で微笑み続けるだけでした。決して少女に救いの手を差し伸べてはくれません。
 その代わりに応えたのは若い男の声でした。少女が声がした方を見ると、教会の入り口で黒いシルエットがこちらを見つめています。

「王子様?」

「いいや? でも、お嬢ちゃんをここから連れ出すことは出来るよ」

 そうして差し出される手。聖母は差し出してくれなかった手。真っ黒な手袋に包まれた手のひらが、少女が取るのを待っています。

「ふぅん……それなら王子様じゃなくてもいいわ!」

 彼女はそう言って少しも迷わずに黒ずくめの手を取りました。それに男は満足そうに笑います。そして、強く彼女の手を引いて歩き始めました。

 遠ざかる寂れた教会。ここに少女が戻ることはもうないでしょう。

 さて、彼女が行くのは物語の主人公としての生でしょうか。
 それとも、
 
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